【プロ野球】笑顔のバースデー勝利。
斎藤佑樹が描く「最強の24歳」とは?

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Nikkan sports


 まず、斎藤が8回表のカープの攻撃をわずか10球で終わらせた。9番の天谷宗一郎、トップに戻って梵英心、2番の東出輝裕というカープの機動力を担うイヤらしい3人にポップフライと内野ゴロを打たせて、8回まで88球。打たれたヒットは5本、1失点ながらエラーが絡んでいたため、自責はゼロ。ここまでひとつも三振を奪っていなかったが、29人のバッターのうち16人までを3球以内に終わらせ、十分な余力を感じさせる余裕のピッチングを続けていた。

 一方、7回まで97球、被安打はわずか2本、1点を失ったものの圧巻のピッチングだった野村は8回、突然、マウンドを下りた。打たれたヒットは初回、立ち上がりに1番の糸井嘉男、2番の小谷野栄一に立て続けに浴びた2本だけ。奪った三振7つのうち、見逃しで決めたのが5つ。しかも、その5つの見逃し三振がすべてストレートだったというのだから、いかにキレとコントロールが抜群だったかということが見て取れる。試合後、野村謙二郎監督は「アクシデントがあって本人から交代を打診された」と話していたが、そういう理由でもなければ到底、納得のいかない交代だった。ここが、膠着した試合を動かすポイントとなる。

 1-1の緊迫したゲームが動き始めた。

 カープの2番手、岸本秀樹から金子誠が三遊間を綺麗に抜くヒットで出塁。こういうときの金子は、本当に渋い仕事をする。その後、ファイターズはツーアウト1、3塁として、3番の田中賢介が打席に入った。カープのマウンドには、4番手の今村猛が立つ。

 9回のマウンドに備えてキャッチボールを続けていた斎藤は、しばしば投げるのを中断してグラウンドを目で追っていた。

 そして、田中賢が弾き返した打球が1、2塁間を破った瞬間――。

 意外なことに、斎藤に笑顔はなかった。

 だからこそ、余計、その嬉しさが伝わってくる。

 彼は笑顔を浮かべることなく、一度だけ、力を込めてグラブをボンと叩いた。大きく息をついて、口を真一文字に結び、力強く3球、投げた。

 ついに勝ち越した。

 33日ぶりの白星が見えてきたのだ。

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