【プロ野球】3戦勝ち星なし。いま斎藤佑樹に必要なものは?

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta

 調子がいいのに勝ち星がついてこない――そんなことはこの世界では珍しい話ではない。実際、斎藤は 5月4日に4勝目を挙げてから、勝ち星がないのはまだ、9日のライオンズ戦と16日のカープ戦、わずか2試合だけの話だ。交流戦に入り、空き日が多い2連戦の日程のせいか、ずいぶん勝ってないという錯覚に陥りがちだが、そんなに勝ってないわけではない。にもかかわらず、彼のせっかちな性分も重なって、斎藤がそろそろ勝ちたいという欲に駆られ、それが知らず知らずのうちに焦りに結びついていたとしても不思議ではない状況ではあった。

 5月25日、札幌ドーム。

 初めて対峙するドラゴンズの打線は、意外なアプローチを仕掛けてきた。斎藤の低めを捨てて、高めに絞ってブンブン、強振してきたのだ。初回、荒木雅博に投げた高めのストレートはセカンドライナーに、森野将彦に投じた高く浮いたストレートはライト前ヒットとなった。4番の和田一浩に至っては、高めのボール球に対してさえフルスイングしてみせた。序盤、そのアプローチのほとんどがファウルになったのだが、ドラゴンズの高めに対しての愚直な仕掛けは徹底していた。

 初回に飛び出した稲葉篤紀の3ランホームランで3点をプレゼントされた直後の2回表、ドラゴンズはまたも斎藤の高めをブンブン振ってくる。5番のトニ・ブランコが5球目のストレートを、6番の井端弘和が2球目のカットボールを、7番の山﨑武司が初球のボール気味の真っすぐを、8番の堂上剛裕が5球目のツーシームを、そして9番に入った谷繁元信も4球目の高めに浮いたスライダーを、ことごとく強振してきた。結果はすべてファウルだったのに、この高めへのフルスイングが斎藤にはボディーブローのようにじわじわとダメージを与えていったような気がしてならない。

 そろそろ勝ちたいという焦りと、高めに投げるたびにフルスイングされるというプレッシャーが、斎藤のピッチングを慎重にしてしまう。低めを突こうとして、ストライクが入らず、ストライクを取ろうとして、それが高めに浮くと、フルスイングされる。フルスイングされているだけで結果的にファウルになっているのだから恐れることはないはずなのに、どうしても意識が低めに向いてしまう。すると、ストライクを先行させるのが難しくなる。今シーズンの斎藤は、初球をポーンと平気でド真ん中に投げて、簡単にストライクを取ってきた。プロのバッターと自分との距離感をつかんだことで、ストライクゾーンに投げてもそう打たれるものじゃないという余裕を得たからだ。その気持ちのゆとりが右腕をさらに振らせて、ボールにキレを生む。斎藤が以前、こう話していたことがあった。

「今シーズンは真っすぐにすごくいい感じがあるんです。真っすぐで内野フライやゴロのアウトが取れるので、初球からストライクゾーンに投げ込める。追い込んでからも、三振を取りにいこうというよりも、内野ゴロでオッケーという気持ちで真っすぐを投げられるんです」

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