【プロ野球】叩きのめされても這い上がってくるヤクルト・赤川克紀のプロ根性 (2ページ目)

 それから2年後の2011年。

 ヤクルトは快調に上位争いをしていた。ところが夏場を迎え、一軍の投手陣に故障者が続出した。先発、中継ぎ投手が次々と戦列を離れていく中、ファームから昇格してきたのが赤川だった。

 8月にプロ初勝利を上げると、勢いはさらに増し、9月には中継ぎ、先発で4勝をマーク。崩壊寸前だったヤクルト投手陣を、いやチームそのものを、ヨイショと首位争いに踏みとどまらせる立役者となっていた。

 赤川克紀のボールを受けたのは、ドラフト直前の2008年10月だったと思う。

 どしゃ降りの雨の日。宮崎商業のグラウンドは雨でも投げられるブルペンがないからと、濱田登(はまだ・のぼる)監督がわざわざ、近くの高校のブルペンを手配してくださった。夕方になるとすでに明るさはなく、照明を点(つ)けてのピッチング。

 立ち投げの1球目から「カットボール」だった。ミットを構える目の前を薄く斜めに横切って、こっちの左の肩のあたりで、弾けるような捕球音を響かせた赤川のクロスファイアー。こういうストレートなんだ......。

 夏の甲子園で延長戦となった鹿児島実業戦でも、内角ストレートに「来たっ!」と思ってフルスイングした打球が、ずいぶんとポテンヒットになっていた。これだからポテンになるんだ......。木のバットなら外野に飛びっこないぞ、この食い込み。

 そして一度ホップしてから、大きく横にすべってくるスライダー。最初はミットの先でひっかけて、やっと捕った。これまで受けてきたスライダーとは、ボールの運動量が違っていた。

「いや、やっぱりプロです。もう、プロって決めてるんで」

 ノンビリとした、穏やかな語り口。ゆっくりと考えながら、それでもなかなか言葉が出てこない。いきなりプロで大丈夫かなと、余計なお世話の「進学のすすめ」。

「厳しいのはわかってますけど、自分はプロです」

 ふくよかな温顔(おんがん)の中で、細い目だけがギラリと怖く光っていた。

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