【プロ野球】解説者たちが絶賛した好リード!
好調ヤクルトに中村悠平あり

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • 日下康祐●写真 photo by Kusaka Kosuke

 そんな中村に北野氏も捕手としての教えをいくつか説いたが、そのひとつが「第六感を磨け」というものだった。

「よく相手の狙いを感じろとか、試合の流れを読めとか言いますよね。その中で私は、五感+第六感が勝負の世界においては非常に大切だと思うんです。これは将棋の羽生善治名人も言われていましたが、『五感を磨いた上に直感、ひらめきの第六感が勝負を制する』と。さらに『直感は経験によって磨かれる』とも言われていました。悠平もプロの世界で経験を積みながら、第六感も磨かれてきたのだろうと、あの試合を見ながらあらためて思いました」

 以前、リードについて中村は次のようなことを言っていた。

「高校の時のリードはシンプルで、打者がストレートに振り遅れていたり、変化球に合っていないと思えば、その球を続けるのが基本でした。でもプロは1球目に遅れたとしても同じ球を続けたらドンピシャのタイミングで打ち返されることも珍しくない。前の反応を鵜呑みにはできないし、同じ球を続ける時はより慎重にならないとダメなんです」

 一方で、「プロの投手は球種も多い。たくさんの球種がある人ほど、その日の調子のいい球、悪い球を早く見極めないといけない」とも語っていた。

 あの場面――増渕の初球のストレートは外角に大きく外れショートバウンドした。2球目のスライダーも外角に大きく外れた。そしてボールが許されない3球目、ストレートとスライダーは使えないと判断した中村は、シンカーを選択したのだろう。そして空振りした長野の対応や性格も読み、結果、シンカーを3球続ける大胆な配球で勝負を決した。

 そして高校時代、北野氏が中村に何度も繰り返し教えたのが、内角の使い方だった。北野氏は高校卒業後、龍谷大学でプレイを続けたが、1年先輩にのちに南海ホークスへ進む山本忠男氏がいた。山本氏はプロ入り後、当時、南海の4番・捕手として絶頂期にあった野村克也氏の野球理論に感銘を受けた。そして高校野球の指導者となった北野氏にも、「すごいぞ!」と何度も野村氏の野球理論を伝えた。その中のひとつに『内角論』もあった。以来、「内角の使い方」は北野氏の捕手指導のひとつのテーマとなり、中村にもしっかり受け継がれ、高校では数少ない内角をしっかり使えるキャッチャーとして成長していった。

 中村自身も「リードに正解はないけど、抑えるポイントとしてはっきりしているのはインコースの使い方。どれだけバッターに内を意識させられるかで攻め方の幅も大きく変わってくる」と語る。
 
 相川の負傷以降、ここまで23試合でマスクをかぶり(5月10日現在)、その間のチームは14勝8敗1分。リード以外にも盗塁阻止率.750は堂々のリーグトップ。相川の抜けた穴を見事に埋めている。

 相川の復帰までにはまだしばらく時間がかかりそうだが、復帰となっても小川淳司監督を大いに悩ませることは間違いない。また、その悩みが深いほど、チームは好調をキープしているということだ。今年のキャンプイン前に「相川さんを追い越すくらいの気持ちで正捕手を目指す」と抱負を語っていた男が、有言実行でヤクルトを引っ張っている。

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