【プロ野球】井川慶まさかの負傷降板も、大いなる可能性を秘めた62球 (2ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Nikkan sports

 井川の現状に対して三宅氏は、かつての達川光男氏との会話を持ち出し、次のように語った。

「たっちゃん(達川氏)が、プロの世界では絶対の決め球でも持つのは3年って言うんですよ。あれは納得でしたね。(藤川)球児でもストレートを狙われると抑えられんようになってくる。井川も、優勝(03年)した翌年あたりからチェンジアップの抜けが甘くなって、打ち込まれるようになった。まあ、ストレートは140キロが出なくてもキレがあればやっていけますけど、井川のいちばんの持ち味はあの腕の振り。そこがどうでしょうかね」

 そして昨日、一軍初登板の直前、赤堀元之投手コーチに井川の印象を聞くと、何とも言えない表情でこう答えた。

「投げてみないとわからない、としか言えない。以前と同じものを期待されるとさすがに厳しいですけど、今の状態の中でどこまで投げられるか。見通し? 難しいねぇ......」

 そんな現状を、井川自身は誰よりもわかっている。登板を前にした5月7日の練習後、「前のイメージを持っていると、みなさんをがっかりさせるかもしれない」と、気弱なコメントを残していた。ところが、だ。

 ソフトバンクの先頭打者・明石健志への初球はいきなり140キロを計時。日本復帰後、実戦でははじめてのことで、マウンド上の顔つきも、フォームの力感もそれまで(の二軍での調整登板)とは別人だった。その変貌ぶりに、三宅氏と赤堀コーチが最後に言った言葉を思い出した。

「あれだけのピッチャーですから、一軍のマウンドに上がったら変わる可能性は十分にありますよ」(三宅氏)

「本番になって変わったとしても不思議じゃない。そこも含めて、投げてみないとわからないということ」(赤堀コーチ)

 奇しくも、同じようなニュアンスのことを語っていた。その言葉通り、明石を142キロのストレートで見逃しの三振に打ち取るなど、初回をあっさり三者凡退。2回もペーニャを139キロのストレートで詰まらせファーストファウルフライ、松田宣浩はスライダーで空振り三振、小久保裕紀は142キロのストレートでライトフライに抑えた。試合後、井川が「そこそこ打者を押し込めた」と振り返っていたように、立ち上がりからストレートは走っていた。

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