【プロ野球】4月首位の日本ハム。開幕投手・斎藤佑樹の波及効果 (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 踏み出した左足はボールをリリースするまでは微動だにさせない。それは着地した左足でカベを作って上体を旋回させ、リリースの際、最大の力をボールに伝えたいからだ。ましてプレートの三塁側を踏んで投げている今シーズン、斎藤は踏み出す左足もできるだけ三塁側に着くよう、インステップを意識している。インステップすればそれだけカベを作る際の左足の負荷が増し、さらなるガマンが強いられる。それでも、そのガマンによって作り出されたカベが、ボールにさらなる角度とキレをもたらすのだ。ただしその分、投げ終えた後に左足をクルッと回して力を逃がすことが必要となる。そのバランスをうまく取れれば腕もしっかり振れるし、角度とキレのあるボールがいく。ところがガマンし切れずに着地した左足がズレてしまうと、力が分散してボールに伝わらず、失投になってしまう。 しかも投げ終えた後のバランスが崩れがちになって、打球に備える形も作りにくくなる。今シーズン、斎藤の横をすり抜ける打球が目立っていたのは、そのせいだったのだろう。

 仙台のマウンドは柔らか過ぎて、左足の着地点が掘れすぎてしまっていた。左足がその掘れた穴にスッポリはまってしまうと、回すのが難しくなり、左側への打球に体を預けることもできなくなる。掘れ過ぎる柔らかいマウンドが斎藤の着地した左足から余裕を奪い、ストレートとフィールディングの邪魔をしていたのである。だから聖澤の打球に斎藤は体を預けることができず、グラブを差し出すだけになってしまったのだ。

 稲葉の1点を守れなかった斎藤は、切れた緊張の糸を結び直すことができない。今シーズン初めて同じイニングに2点目、さらには3点目を失い、逆転を許した。それでもファイターズが6回表に同点に追いつき、その裏、斎藤が再びツーアウト3塁のピンチを背負う。追いついた直後のピンチで、打席にはまたも聖澤。この場面、吉井理人ピッチングコートがマウンドへ向かって檄を飛ばした。

「流れというものがある。ここは絶対に流れをやっちゃ、ダメな場所や」

 斎藤は聖澤に対し、ストレート、スライダー、チェンジアップ、カットボールと、4球すべてをインコースに投げ込み、空振り三振に斬って取った。流れを相手に与えることなく、6回を投げ終えて3失点、112球で斎藤は降板。試合はこのまま3-3の引き分けに終わった。試合後、斎藤は言った。

「今日は6回3失点。去年までならよしとする点数ですけど、今日はその6回3失点がすごく悔しく思えている……そのことはいいことというか、もっともっと上を目指していかないといけないと思っています」

 開幕から5試合、すべてカードの頭に投げて3勝1敗、防御率1・70。 マウンドでの立ち居振る舞いにはもはや、エースのオーラさえ漂っている。武田勝が今年も2番手として力を発揮し、ファイターズは4月を首位で駆け抜けた。栗山英樹監督の“開幕投手は斎藤佑樹”という戦術はプラスの波及効果を生み出している。風薫る5月、プロ1年目の昨年はケガに泣き、五月病の如き精神的な落ち込みに悩まされた。果たして2年目の斎藤は、5月の薫風を追い風にできるのだろうか。

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