【プロ野球】プロ初完封勝利。斎藤佑樹が語った「不思議な感覚」の意味 (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 ところが、である。

 斎藤は、美しい軌道のストレートとはあまりにも対照的な、ワンバウンドのボールを何球も投げていた。まるで地面に叩きつけるかのような、不細工なワンバウンドのボール。これはフォークではなく、スライダーだった。しかも、そのスライダーがワンバウンドになるたびに、脇で見ている吉井コーチがニヤニヤしている。

 やがて試合が始まると、その理由がわかった気がした。

 斎藤は、ワンバンになってもいいという意識で、低く低く、縦のスライダーを投げていたのである。

 右バッターには、インコースに食い込むツーシームを、左バッターにはインコースへカットボールを見せる。そして、右バッターには低めのボールゾーンにきっちり決めた縦スラを、左バッターにはチェンジアップを振らせ、ここというところでは、ストレートをストライクゾーンに投げ込む。斎藤が2、3、4回と、簡単にツーアウトを取りながらランナーを出して、毎回のようにピンチを背負いながら、そこから崩れないのは、平気な顔をしてストライク勝負ができるからだ。

 この試合、斎藤がスコアリングポジションにランナーを背負うこと、じつに7度。斎藤はその7度のうち5度まで、初球にストライクを投げている。残る2度のうち、1度は2球目にストライクを投げた。つまり、ノーストライク、ツーボールにしてしまったのは、1度だけ。しかもそれは9回裏ツーアウト1、2塁となった、最後の場面だけだった。

 打席に迎えたのはバファローズの1番、坂口智隆。その初球、チェンジアップがとんでもない高さに抜け、2球目もチェンジアップが低すぎた。さすがの斎藤も完封を意識しているのかと思っていたが、じつは違っていた。

 斎藤はこの時、感情を抑えるのに必死だったのだ。

 試合が終わったわけでもないのに感情が高ぶっていたのにはわけがあった。

 坂口を打席に迎える直前、9回裏のツーアウト1塁から、斎藤はバファローズの9番、由田慎太郎を打席に迎えていた。その初球、アウトローのツーシームを由田が三遊間の深いところへ弾き返した。

 その直後──。

 ショートの金子誠が横っ飛びで打球をつかみ、体勢を立て直せないまま、必死の形相でセカンドにボールを投げたのだ。しかし、送球が逸れて、セカンドはセーフ。試合は終わらなかった。

 それでも、この金子のダイビングには、なんとか斎藤に完封をさせてやりたいという想いが満ち溢れていた。

 斎藤は、その想いに感動していたのだ。

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