【プロ野球】田中将大との宿命の対決で斎藤佑樹が感じたエースの仕事 (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 しかし、栗山監督は7回途中で斎藤をマウンドから降ろした。その心を、こう説明した。

「こういう試合を勝ちゲームにしたかったからあそこで代えたけど、監督という立場と野球人という立場でずっと葛藤していた。今日はけじめをつけない終わり方にしてしまって、日本中のふたりの対決を楽しみにしていたファンには本当に申し訳ない……」

 思い浮かんだのは、この言葉だ。

 “運命”は変えられる。
 “宿命”は変えられない。
 “天命”は変わる。

 だから己の“宿命”を背負い、“運命”と戦い、“天命”を知れ、と──。

 これはその昔、“土俵の鬼”こと第45代横綱、初代若乃花の、故・花田勝司さんからうかがった言葉だ。この言葉を斎藤と田中に当てはめると、今の彼らの置かれた立場がなんとなく見えてくる気がする。もちろん、これからの運命はいかようにも自分の力で変えることができる。しかし、夏の甲子園で稀有な名勝負を演じたことによって背負わされた宿命はもう変えることはできない。そんなふたりが野球界にとって、あるいは今の日本人にとってどれほどの存在になるのか。天命は時代背景によって変わることがある。斎藤も田中も、その天命を知っている。だから、世の中の求めるライバル関係を受け入れ、周囲もその対決から何らかのメッセージを感じ取ろうとする。このふたりの対決には、本人たちが望むと望まざるとに関わらず、野球を越えた現象が確かに存在してしまっている。

 次は、4月28日──。

 今度は仙台に舞台を移して、ふたりの対決がまたも実現する可能性が高い。その時、このふたりは、エレガントで、折り重なった味わいのワインを堪能させてくれるだろうか。

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