【プロ野球】投高打低時代、
チームの浮沈を握るのは『出来のいい2番打者』

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

開幕戦で2番を任された稲葉は、初回無死一塁からセンターオーバーの二塁打を放ち、先制の好機を演出した開幕戦で2番を任された稲葉は、初回無死一塁からセンターオーバーの二塁打を放ち、先制の好機を演出した 統一球2年目の今シーズンも、昨年同様に投高打低のロースコアの戦いが続いている。そのため、各チームとも一発に頼るのではなく、足や小技を絡めた攻めが目立つ。そんな1点の重みが増している今のプロ野球にあって、大きな役割を担うのが2番打者だ。

 今年の開幕戦の2番打者を見ると、パ・リーグが明石健志(ソフトバンク)、稲葉篤紀(日本ハム)、栗山巧(西武)、大引啓次(オリックス)、聖澤諒(楽天)、根元俊一(ロッテ)。セ・リーグは大島洋平(中日)、上田剛史(ヤクルト)、ジョン・ボウカー(巨人)、柴田講平(阪神)、梵英心(広島)、石川雄洋(横浜)。西武とオリックス以外の10チームが昨年の開幕時と2番を代えた。こうして2番の顔ぶれを見ると、各チームが今年どのようにして点を取ろうとしているのかといった得点パターンや監督の野球観までも見えてくる。

 例えば、日本ハムの栗山英樹新監督は昨年まで中軸を担ってきた稲葉を2番で起用した。絶対的エースだったダルビッシュ有が抜け、昨年以上に攻撃力アップが求められる中で生まれた、まさに「攻撃型2番」。開幕から6試合で2番に座り、犠打は0個。ただ、栗山監督は打撃最優先で稲葉を2番にセレクトしたわけではない。栗山監督が評論家時代に出した著書『ベースボールアカデミー』(出版芸術社)の中で、次のように語っている。

「野球の攻撃というのは27個のアウトを取られるまでに、どれだけ点を取るかです。ひとつのアウトをどうやって相手にあげてしまうかは、ものすごく大事なこと。例えば、初回に先頭打者が出塁したケースで簡単に送りバントでワンアウトを上げてしまうと、ピッチャーに一呼吸つかせて、立ち直るきっかけを与えてしまうかもしれない。ピッチャー出身の監督は送りバントのサインをあまり出しません。ピッチャーがワンアウトを取ることで気持ちが落ち着いてくるということをよく知っているからです」

 しかし、送りバントを全面的に否定しているわけではない。信頼度の高いストッパーにつなげればかなりの確率で逃げ切れるケースや、次の打者にイチローのようなバッターがいる場合なら......バントで1点を取りにいくこともOKという。

 現役時代は2番の経験が多かった栗山監督にしてみれば、野球を知り、高いバッティング技術を備え、必要であればバントもできる稲葉は、まさに理想の2番なのだろう。ところが開幕3カード目のロッテ戦から稲葉を5番にして、小谷野栄一を2番に据えた。試合後、「過去に成瀬(善久)を打っていない。データを見て考え、できる限りの準備をした」と変更の理由を明かしたが、この試合以降、小谷野の2番が続いている。

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