【プロ野球】新垣渚、涙の復活。剛球との決別でつかんだ1273日ぶりの勝利 (2ページ目)

  • 田尻耕太郎●文 text by Tajiri Kotaro
  • 繁昌良司●写真 photo by Hanjo Ryoji

 募る疎外感と焦燥感――それを救ってくれたのは2009年12月に結婚した妻(杉内夫人の妹)と2010年8月に誕生した長女だった。

「娘が何事にも必死に頑張って、そうやって成長する姿を見ていると、自分の考えていることなんてちっぽけなものだと思った。それからリラックスできるようになりましたね」

 右肩を痛めて以来、自慢だったスピードは失われた。「打者の視界から消える」と言われたスライダーも以前ほどのキレはない。だが、新垣にもう迷いはなかった。

「テーマは脱力。いかに少ない球数で、打たせて取る投球ができるか。それが自分の新しいスタイルです」

 新垣のモデルチェンジは復活マウンドの投球内容を見れば明らかだった。9回で120球を要したが、7回までは78球で投げ切った。奪三振は5つのみだったが、与四死球は0。ボールを低めに集めて13の内野ゴロを打たせた。

 試合後のお立ち台。グラブに縫い込まれた『感謝』の2文字について尋ねられた時にはもう涙が止まらなかった。「やっぱり応援してくれた、家族に......」。唇が震え、声にならなかった。涙もろい新垣はこれまでも何度も泣いたことがある。「だから今回は絶対に泣かないと決めていた。恥ずかしい」と笑ったその顔には、トレードマークのえくぼがくっきりと浮かんでいた。

「お立ち台に立って、その後ファンのみんなとハイタッチをして......。懐かしいな。昔もこうしてやっていたなと思い出しました。これからもずっとできるように頑張ります」

 奇しくもこの日、"義兄弟"の杉内も巨人移籍後初勝利を飾った。ともにエースナンバー「18」を背負うのも不思議な縁である。

 杉内、和田、ホールトンと先発三本柱を失ったソフトバンクだが、新垣の復活は連続日本一とリーグ3連覇へ大きな弾みとなる。

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