【プロ野球】開幕戦、プロ初完投勝利。斎藤佑樹が解いたひとつの封印 (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 特筆すべきは、徹底した1-1ピッチだった。

 2球投げれば、どちらかでストライクを取るピッチング。野球は、3つまでボールを投げられる。3つのストライクでアウトになるのだから、つまりは1-1ピッチを続けている限り、フォアボールを出すことはない。ボールが先行しないピッチャーに対しては、追い込まれたくないというバッターの心理が働き、試合が進むほど、早打ちになってくる。この日のライオンズ打線は、斎藤の1-1ピッチの術中に完璧にハマってしまっていた。

 驚くなかれ、斎藤がこの日、対戦したライオンズのバッターのべ32人に対し、2球投げてストライクが入らなかった、つまり2-0(2ボール、ノーストライク)のカウントにしてしまったのは4回表の先頭、3番の中島に対したとき、そのたった一度だけだ。あとはすべて1-1、もしくはツーストライクと追い込むか、あるいは2球目までに決着をつけている。ライオンズの開幕投手を務めた涌井秀章は、対戦した23人のうち、なんとほぼ半分の11人ものバッターを、2-0のカウントにしてしまっていた。試合後、キャッチャーの鶴岡慎也が舌を巻いていた。

「よかったねぇ、ビックリするくらいよかった。まっすぐもよかったし、コントロールもよかったし、変化球もよかった。ストライク先行でいこうとは話してましたけど……元々、これくらいできるのか、僕もアイツのピッチングに関してはまだ未知数の部分があるんでね(苦笑)」

 ファイターズの打線は、斎藤を後押しするが如く打ちまくり、徐々にリードを広げていく。徹底してストライクゾーンで勝負する斎藤に、中盤以降はライオンズ打線も早めの勝負を仕掛けるものの、3塁側からの角度を生かした対角線を有効に使って、斎藤は凡打の山を築く。4回以降の23人のバッターのうち、2球目までに決着をつけたのは、13人。110球で最後まで投げ切った斎藤は、プロ初の完投勝利を、開幕戦という大舞台で成し遂げたのである。

 鶴岡に頭を叩かれ、吉井コーチにハグされ、栗山監督に肩を叩かれて、快挙をねぎらってもらった斎藤は、試合後のお立ち台で、またも驚異的な言葉の力を見せつける。

「今は持ってるんではなくて、背負ってます」

 いつしか、斎藤が口にした“持ってる”という言葉が誤って使われるようになっていた。持ってる、というのは、自分の力が及ばない次元で彼に舞台が用意されてしまうことを言うのであって、そこで斎藤が力を発揮することを指しているわけではない。どれほどの大舞台で勝っても、それを「持ってる」で片付けられてはたまらない。

「去年のダルさんがいなくなった穴を、隙間だらけかもしんないですけど少しでも埋められるよう、頑張っていきたいと思ってます」

 ひとつ目の封印を解いた斎藤は、プロでの立ち位置を確かめるために開けずにいた引き出しを、今年は次々と開けてくる。ダルビッシュが君臨していながら、ファイターズの開幕戦勝利は4年ぶりだった。だから、野球はおもしろい。開幕戦でのプロ初完投勝利は、斎藤佑樹が2年目に描くストーリーの、まだほんのプロローグに過ぎない──。

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