【プロ野球】藤岡貴裕のピッチングを支える繊細な指先感覚 (3ページ目)

  • photo by Nikkan sports

 藤岡のフォームは怖かった。一見、端正な身のこなしなのに怖いのは、腕を、いやボールをなかなか見せてくれないからだ。右足を踏み込む時の、半身(はんみ)の姿勢が美しい。左肩を最後の最後まで向こう側に隠して、ぐっと踏み込んできて、ギリギリのところで肩の左右をパッと切り換える。そこからズバッと腕を振るから、「150キロ」の球もすごいが、ボールを見せてくれないフォームは打者も不安と恐怖を感じるに違いない。

 ストレートも、スライダーも、カーブもフォークも、持ち球のすべてを構えたミットに投げ込んでくれた。構えたところに投げてくれたから捕れた。そっちのほうが「ホントのところ」だったのかもしれない。それほどに、彼のボールはベースの上で伸び、曲がり、その生命力を存分に発揮してくれた。

 再び、高橋監督を祝う会の会場。

「藤岡~、舞台、舞台」

 チームメイトが呼びかける声に、「じゃあ、これで」と舞台に向かう間際、握手をかわした藤岡の両手が柔らかい。

 あの時も、こんなだったなぁ……。持ち球のすべてを、およそ50球。懸命に投げてくれたあとの、エッ!と思うほどのソフトタッチの握手。きっと、ボールだってふんわりと握るピッチャーなんだろう。

 ボールを握った時のデリケートな指先感覚を大切にして、背中にいやな汗びっしょりかくような場面でも、間違っても、手首に骨が浮くほどギュッと握ったりしない。そういうピッチャーなのだろう。

 だからこその精緻なコントロール、だからこその球持ちの良さ。努力だけではなかなか得難い大きな財産を武器に、藤岡貴裕が1年目からローテーションに食い込む。

プロフィール

  • 安倍昌彦

    安倍昌彦 (あべ・まさひこ)

    1955年宮城県生まれ。早大学院から早稲田大へと進み、野球部に在籍。ポジションは捕手。また大学3年から母校・早大学院の監督を務めた。大学卒業後は会社務めの傍ら、野球観戦に没頭。その後、『野球小僧』(白夜書房)の人気企画「流しのブルペンキャッチャー」として、ドラフト候補たちの球を受け、体験談を綴っている。

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