【プロ野球】藤岡貴裕のピッチングを支える繊細な指先感覚

  • photo by Nikkan sports

 昨秋のドラフトで、最も指名が集中すると言われていた藤岡。その数は6球団とも7球団とも予想された。各球団がけん制しあったために、フタを開けてみたら3球団の重複に落ちついたが、そこからロッテに「選択確定」のクジを引き当てさせた藤岡。

 一昨年の斎藤佑樹(早稲田大→日本ハム)も「持っているヤツ」だったが、藤岡も「持っている」ことにかけてはぜんぜん負けていない男なのだ。

 2年生で東洋大投手陣の中軸になって以来、この試合は何がなんでも勝たなきゃいかん! そんな大一番はすべて勝(と)ってきた。特に4年生の昨年は、大学選手権優勝の「日本一」に高橋監督の「通算502勝」(東都リーグ新記録)と、メモリアル試合をすべて完投で飾ってきた。

 その藤岡が「流しのブルペンキャッチャー」で投げてくれたのは、昨年春のリーグ戦のさなか。その日は、東洋大OBの松沼博久、雅之のご兄弟がたまたまグラウンドにおられて、どれどれとブルペンをのぞきに見えたものだから、こちらの緊張はおのずとピークに達していた。

 マウンドの藤岡の向こうに松沼兄弟、そして高橋監督。みんな腕組みをして、怖い顔でこっちを向いている。こっちも緊張しているが、「東洋の4人」も同じく硬くなっているのがわかる。

「だいじょうぶ、アベサン?」

「決戦」の息苦しさをたまりかねたように、高橋監督が声をかけてくれた。

「まかしといてください!」

 ハッタリ100%の元気な声を返して、それでも監督さんのこのひと言で、ずいぶん肩の力が抜けたのを覚えている。

 初球のストレートで、乾いた音が東洋大ブルペンにこだました。監督さんがウンウンと頷(うなず)きながら、グラウンドに戻っていった。これがありがたかった。無言の激励に思えた。

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