【プロ野球】「3年目の正直」菊池雄星がいよいよ本格化! (2ページ目)

  • 横山弘樹●文 text by Yokoyama Hiroki
  • 甲斐啓二郎●写真 photo by Kai Keijiro

 さらにカーブを習得したことで "化学反応"も起きた。カーブを投げる際、効率良く縦回転を加えるために、肘の高さを模索。昨季までのスリークォーターの高さから、オーバースローに上げた。それによりカーブのキレが増したのと同時に、ストレートが生きるようになった。

「カーブを投げるようになって、急に奪三振率が上がった。これまでバッターは、雄星の高めのストレートは振らなかった。でも、ワンバウンドするカーブを振らせるうちに、高めのストレートに手を出してくれるようになった」

 菊池の豪州行きに同行していた球団編成部の潮崎哲也はそう振り返る。スライダーピッチャーからカーブピッチャーへの転身。2012年版の菊池雄星が姿を現した。

 ここまでたどり着くには幸運もあった。菊池のイメージするカーブは、ストレートとカーブを軸に通算224勝を稼いだ希代の名左腕・工藤公康のものだ。左肩を痛め二軍調整が続いた09年。同じ時期に二軍で調整をしていた工藤と、所沢の西武第2球場でキャッチボールを続けた。「キャッチボールからカーブを見せてくれた。その軌道は頭に入っている」。まさに"工藤カーブ"が菊池の中に息づいている。

 当然、その転身を支えてきたのは、菊池の努力があってこそ。2月2日のブルペン入りで、左肘の高さ、角度以外に驚いたものがある。それが膨らみを増した下半身、特に大腿部だ。「馬のようなケツをしているね」と、渡辺監督も目を見張った。

 オーストラリア、そして年明けはハワイ。トレーニングをしっかり続けてきたことが、今の下半身を支えている。キャンプ中は西武投手陣では類を見ない、150キロバーベルを3回フルスクワットで持ち上げるトレーニングメニューを実行中。180キロ台のバーベルでスクワットをする巨人・澤村拓一には及ばないが、今後、同じようにどっしりした下半身が手に入る可能性は十分にある。菊池が目標にする、「プロで1度、150キロを出したい」という願いも近づく。

 西武には"高卒3年目"に飛躍を遂げたエースの系譜がある。渡辺監督は高卒3年目の1986年に16勝(6敗)をマークして初タイトルとなる最多勝を手にした。そして現エースの涌井秀章も高卒3年目の2007年に17勝(10敗)で最多勝を獲得。そして今年、高卒3年目を迎える菊池もその系譜に乗ることができるのか――。菊池をルーキーイヤーから見続ける渡辺監督は言う。

「雄星は今年頑張れるかどうか。今年、ローテーションに入り続け結果を残せたら4、5年は安定した成績を残せるはず」

 これまではどちらかといえば実力よりも話題先行だった菊池だが、今年は"本物"になる予兆が、キラ星のように広がっている。「20年にひとりの逸材」と呼ばれた怪物が、いよいよそのベールを脱ごうとしている。

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