大谷翔平の走力をメダリスト朝原宣治が分析。「股関節と肩甲骨の使い方がうまい」 (4ページ目)

  • 中村計●取材・文 text by Nakamura Kei
  • photo by Kyodo News

【大谷は野球界の"室伏広治"】

――それにしても、日本人でこんな選手が出てくる時代が来るとは、という驚きが今もあります。これまでも柔らかさやスピードで世界と渡り合った日本人選手はいましたが、大谷選手には、それらに加えて世界でも見劣りしないパワーがあります。

「陸上の世界も、ほんとそうなんですよ。技術で体格を補ってきた。でも大谷選手は技術も体もある。そういう意味では、イメージ的にハンマー投げの室伏広治に近いですね。ハンマー投げの世界では、彼も決して大きいわけではないですが、それなりの体があって、技術もすごかった」

――陸上界も、ちょっと前までは、マラソンは勝てるけど100mは永久に勝てないみたいな雰囲気がありましたよね。でも今はそれが逆転しています。野球も大谷選手が出てきて、パワーでは勝てないという説は単なる思い込みだったのかな、という気もしてきます。

「100mはメダルを取るというところまでは、まだいってないと思いますけどね。ただ、400mリレーのようにバトンの受け渡しという技術が1つ入るとメダルを取れるようになった。たぶん、どの競技よりも陸上では『日本人離れ』という言葉が使われてきたと思うんです。それって、そもそも『日本人に向いてない』という前提があるからなんです。そこを払拭しないと、やっていてもつまらないですよね」

――『日本人離れ』って、スポーツの世界で、つい使ってしまう言葉ですよね。陸上界は特にそこの壁に何度も跳ね返されてきた歴史がありますもんね。

「もろにそうですね。僕も何度もやられてきた。やっぱり、持っているものが違うな、と。でも大谷選手のような選手が出てきて、競技は違いますが、陸上界にも新たな世代が出てくるのではないでしょうか。100mの分野では、まだ日本人スプリンターに大谷選手のような大きな選手が少ないのですが、サニブラウン選手のように185cmを超えるような選手がどんどん出てきたらおもしろくなるでしょうね」


Profile
朝原宣治(あさはら・のぶはる)
1972年6月21日、兵庫県生まれ。兵庫県立夢野台高校で本格的に陸上競技をはじめる。同志社大学時代、国体の100mで10.19秒の日本記録(当時)を樹立。その後、大阪ガス株式会社に入社し、2008年北京オリンピック4×100mリレーでは、銀メダルを獲得。同年9月、36歳で現役引退を表明した。現在は陸上クラブ「NOBY T&F CLUB」を主宰するなど、次世代のアスリート育成に尽力している。

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