イチロー「奇跡の60試合」。メジャー短縮シーズンでその偉業に再注目 (5ページ目)

  • ブラッド・レフトン●文 text by Brad Lefton
  • photo by AFLO

 8月は56安打を放ち、シーズン3度目の月間50安打。全米の注目が高まり、ファン、メディア、チームメイト、そしてライバルからもイチローを讃えるコメントが溢れていた。さらに、イチローへのリスペクトは言葉だけでなく、グラウンドでも表れるようになっていた。

 9月1日、トロントでのブルージェイズ戦。同点の7回、二死一、二塁の場面で、この日2安打を放っていたイチローに回ってきたが、ブルージェイズベンチからすぐさま敬遠のサインが出た。勝ち越しのランナーを三塁に進めるのは、野球のセオリーからすればあり得ない作戦だ。それでもブルージェーズは目論見どおり次打者を抑えてピンチを脱したが、イチローへのリスペクトは明らかだった。

 9月4日のシカゴでのホワイトソックス戦ではこんなこともあった。対戦するのは、豊富な球種と抜群のコントロールでメジャー屈指の左腕となったエースのマーク・バーリー。すでにイチローに3安打を許していたバーリーは、第4打席の初球でなんと106キロのスローボールを投じたのだ。つまり、イチローに対してもう投げる球がないという意味だった。

 結局、その2球後、二遊間に抜けるこの日4本目のヒットを打たれたバーリーは、マウンドから一塁にいるイチローに向かって脱帽し、降参した。

 さらにサプライズは続いた。9回にホワイトソックスの3番手からこの日5本目のヒットを放ったイチローに対して、敵地シカゴの24191人の観客はスタンティングオベーションで称えた。

 翌日の試合でさらに1安打を放ち、これでシーズン通算224安打となったが、この日は7月1日から数えてちょうど60試合目だった。先述したように、この間イチローは119安打を放ち、打率.458という驚異的な数字を残したのだ。

 この"奇跡の60試合"もあって、イチローはメジャー記録となる262安打を達成し、打率.372で2度目の首位打者も獲得。イチローにとっても、ファンにとっても忘れられないシーズンになった。

 いよいよメジャーリーグが開幕する。この2004年のイチローの偉業を思い出しながら、これから始まる異例のシーズンを楽しみたい。

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