2020.07.23

イチロー「奇跡の60試合」。
メジャー短縮シーズンでその偉業に再注目

  • ブラッド・レフトン●文 text by Brad Lefton
  • photo by AFLO

 その一方で、エンゼルス戦の成績はよくなかった。

 エンゼルスの最大の武器は首脳陣だった。元キャッチャーのマイク・ソーシアが監督で、ベンチコーチがジョー・マドン(現・エンゼルス監督)だった。彼らが細かい野球を求め、とくにイチロー対策は徹底した。

 独自のデータに基づき、ほかのチームではやっていない二遊間の選手を二塁ベース側に寄せる"イチローシフト"を敷いた。実際、この年の4月の対戦でイチローはエンゼルス投手陣に28打数6安打(打率.214)と抑え込まれていた。

 ところが7月の対戦では、イチローが36打数15安打(打率.417)と打ち込み、29日の試合では自身メジャー初となる1試合5安打。苦手としていたエンゼルス戦で圧巻のバッティングを見せた。結局、7月は51安打を放ち、シーズン2度目の月間50安打をマークした。

 8月になってもイチローの勢いは止まらない。8月3日のボルチモア・オリオールズ戦のダブルヘッダーで通算6打数6安打。一気に打率は.355まで上がり、デトロイト・タイガースのイバン・ロドリゲスを抜き、このシーズン初めて首位打者に浮上した。

 ちなみに、6月30日の時点でのロドリゲスの打率が.381だったのに対して、イチローは.315と、6分6厘もの差があったのだ。

 また、オリオールズにはイチロー、ロドリゲスとともに首位打者争いをしているメルビン・モーラもいた。彼は6月30日の時点で打率.357(2位)とイチローに4分2厘差をつけていたが、わずか5週間の間に追う立場に変わってしまった。モーラは悔しそうな顔でこう語っていた。

「どうしようもありません。だって、イチローはメジャーでベストプレーヤーです。賢くて、走攻守すべて揃っている。本当にすごい選手です。もうお手上げです」

 8月17日のカンザスシティ・ロイヤルズ戦で、イチローはまた猛打賞となる4打数4安打。118試合を消化した時点で189安打となり、この頃からメジャーのシーズン最多安打の記録を持つジョージ・シスラーの名前が出るようになった。