田中将大が奪われたスプリットの落差。コーチはボール変更の影響と断言 (3ページ目)

  • 杉浦大介●取材・文 text by Sugiura Daisuke
  • photo by getty Images

 幸いなのは、ここに来て田中本人、周囲ともに納得できる握りを見つけたように思えることだ。とりあえず辿り着いた結論は、より深く握る"フォークボールに近いスプリット"だという。

「ボールを挟む指を少し広げたんだ。これまでも何度かやろうとしたが、感覚がよくなかったようでね。しかし今回は快適な握りを見つけたから、助けになるはずだ。彼はかつてフォークボールを投げていたから、そこまで思い切った変化ではない」
 
 ロスチャイルド投手コーチはそう述べ、適応に自信を見せた。すでに効果も表れ始めており、7月31日のダイヤモンドバックス戦、8月5日のオリオールズ戦で、田中は勝ち投手にはなれなかったものの、スプリットで今シーズン最多タイとなる6つの空振りを奪っている。

オリオールズ戦後の「いい方向に行っているとは思う」という本人のコメントに、今後への希望が見えてくる。新バージョンのスプリットの精度が上がってくれば、背番号19のリベンジのシナリオは現実味を帯びてくるかもしれない。

 問題は、レギュラーシーズンは終了まで2カ月を切っており、新しい握りを仕上げていくための時間が少ないことだ。

 今シーズンのヤンキースはア・リーグ東地区で首位を独走しており、プレーオフ進出は確実。対戦相手のレベルも上がるポストシーズンまでに、田中はスプリットの修正を完了させなければならず、これから先は時間との戦いになる。

「アジャストしていくしかない。自分と向き合い続けて、できることをやっていく。そこは変わらずにやっていきます」

 外的要因で切め球を奪われた田中が置かれた状況は、ひいき目を抜きにしてアンフェアに思えた。それでも、前に進むしかない。フラストレーションは感じても、「諦める」というオプションは存在しない。

 今シーズンは優勝だけを目標にするチームの中で、試行錯誤を続ける田中は納得できるスプリットを仕上げることができるのか。はっきりしているのは、ヤンキースを10年ぶりの世界一に導くために、"魔球"の復活がどうしても必要だということだけである。

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