田中将大が奪われたスプリットの落差。コーチはボール変更の影響と断言 (2ページ目)

  • 杉浦大介●取材・文 text by Sugiura Daisuke
  • photo by getty Images

 長い時間をかけて磨き上げてきたスプリットの効果が、これほどまでに失われてしまった理由はどこにあるのか。田中が今シーズン6勝目を挙げた翌日の7月15日、ヤンキースのラリー・ロスチャイルド投手コーチは次のように断言した。

「ボールの縫い目と表面が(これまでと)違っているからだと思う。ボールの空気抵抗が少ないと打球が遠くに飛ぶのと同じように、スプリットも空気抵抗が少ないと動きが小さくなる。握りや指で加える圧力を変えて修正するしかないが、とてもいいスプリットを長い間投げてきた田中にとって簡単なことではない。だから、しばらく何が起こっているのかを見極めるのは難しかった」

 言い訳を好まない田中がボールの件について公の場で語ることは少ないが、おそらくベテランコーチの考えている通りなのだろう。

 今シーズンのMLBでは、「"飛ぶボール"が使用されている」という疑惑が盛んに報道されてきた。メジャー記録である2017年の合計6105本を大きく上回るペースで本塁打が量産され、オールスター前にはジャスティン・バーランダー(アストロズ)が『ESPN.com』に「ボールが飛ぶようになったのが偶然なんて信じられない」と語ったことも大きな話題になった。MLBのロブ・マンフレッド・コミッショナーも、「意図的ではない」としながら、昨シーズンまでとは違うボールが使用されていること自体は認めている。

 実際に、昨シーズンと今シーズンのボールを握り比べてみると、素人でもわかるほどに手触りが違う。特に縫い目が低くなったことは明白。田中のように、縫い目に指をかけてスプリットを投げるタイプの投手にとっては大打撃だろう。これまでのように力を入れて握れなくなるからだ。

 縫い目が低く、空気抵抗が少ない今シーズンのボールの影響は、単に打球の飛距離が伸びるだけでない。田中にとっては、武器であるスプリットの握りが難しくなり、落差を奪われることにつながった。

「だったら握りを変えてみればいい」と思う人がいるかもしれないが、もちろん簡単なことではない。自身のやり方で"宝刀"に磨きをかけてきた投手だからこそ修正が難しいのだ。そんな厳しい状況下で、今シーズンの田中は開幕直後から質の高いスプリットを追い求めて悪戦苦闘してきた印象がある。

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