田中将大が奪われたスプリットの落差。
コーチはボール変更の影響と断言

  • 杉浦大介●取材・文 text by Sugiura Daisuke
  • photo by getty Images

「ああいう投球が今シーズンは続いているので、自分に対してかなりフラストレーションが溜まるなという感じですね......」

 現地時間8月5日、ボルチモアでのオリオールズ戦を終えて、ヤンキースの田中将大は自身のロッカールーム前で絞り出すようにそう述べた。このコメントを含め、質疑応答の中で"フラストレーション"という言葉が飛び出すこと3度。田中の悔しさがわかりやすい形で伝わってきた。

 8月最初の登板を終えた時点で、防御率は自己ワーストの4.93。この日も5回までは要所を締める投球を続けながら、6-1で迎えた6回裏に4本の長短打で追い上げられ、結局は勝利投手になるチャンスを失ってしまった。

 さまざまな不運もあり、今シーズンの勝ち星はまだ7(6敗)。7月25日のレッドソックス戦では自己ワーストの12失点という屈辱も味わった。このように苦しいシーズンを経験している最大の要因は、やはり"宝刀"と呼ばれるスプリットが切れ味を失っていることだろう。

ボールの握りを確認する田中ボールの握りを確認する田中 昨シーズンまで、田中のスプリットの被打率はメジャー通算で平均.187だったのが、今シーズンはオリオールズ戦前の時点で.292。 空振り率も昨年の36.2%から、今シーズン前半戦では16.6%まで落ちたことが喧伝されてきた。

 ここ数年の田中のピッチングを見てきたファンなら、これまでと比べてスプリットの落差が小さくなっていることが、テレビ画面からもひと目でわかるはずだ。田中本人も、「こういう時に(完調時の)スプリットが投げれたら、と思うことはありますけど、今はそうじゃない」と思わずこぼしたことがあった。

 それでも前半戦は、総じて安定した投球を見せ、オールスターにも選出。切れ味鋭いスライダー、持ち前の制球力、マウンド上での機転によってローテーションを守ったことは、投手としての総合力と適応能力の高さをあらためて示したとも言える。

 だが......ハイレベルなメジャーの世界で、武器のひとつを失った状態でシーズンを戦い抜くのはやはり容易ではなかった。オリオールズ戦を終え、直近の7試合(31回2/3)で36失点。これほどまでの苦闘は、スプリット抜きでのやりくりが厳しくなった結果と考えることもできる。

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