2019.05.13

大谷翔平の根っこは菊池雄星という
「教科書」を用いて築かれた

  • 佐々木亨●文 text by Sasaki Toru
  • photo by Kyodo News

 一人ひとりの能力を見極め、そこにある”個”に光を照らし続ける。それが花巻東高校(岩手)の佐々木洋監督だ。チームを預かる者として、組織としての力の重要性も理解する。ただ、それぞれが特徴を生かして能力を引き上げることこそが、本物のチーム力につながっていくと信じている。

「すべては中庸だと思うんです。両方の一番いいバランスを考えている」

 佐々木監督は常々そう話すのだ。

試合前に談笑する花巻東出身の菊池雄星(写真左)と大谷翔平 アナハイム・エンゼルスでプレーする大谷翔平もまた、高校時代は”個”を生かす指導を受けた。もちろん、ひとりの選手だけにスポットライトを当て、手厚く育てるためにチームがあるわけではない。当然、大谷だけが特別扱いを受けたわけではない。

 ただ、大谷という大きな光の将来を考えれば、その可能性を失わせるわけにはいかない。彼が花巻東に在学していた3年間の佐々木監督は、とりわけチームと大谷の育成のなかで多くの葛藤と悩みを抱えながら日々を送った。互いにとって、もっともいいバランスは何か。今できること、やるべきことは何か。個人とチーム、両方の成長を追い求めながら、常に大谷の将来を見つめていた。

 かつて、佐々木監督はこんな話をしたことがある。

「基本的には、大谷を成長させる方法はシンプルです。彼にとっての肥料とは、たとえばバッティングでは打席数であったり、経験数です。私たちがビニールハウスで一生懸命、水を与えたり、太陽の日を当てようとしなくても、外に置いておけば勝手に自分で雨を感じて水を貯め込む。時には日差しを感じて太陽のエネルギーを蓄えたりする。そして、自然と強くなる。環境に順応して何かを感じ取り、自分のなかに力を蓄えていく。それが大谷だと思います」

 ただ、大谷という器の大きさに佐々木監督は驚いた。大谷を預かることになり、「はじめは怖さしかなかった」と言う。逸材との出会いには喜びがあった。同時に、その才能を自身の指導によって潰すわけにはいかないという不安と恐怖に似た感覚が、佐々木監督にあったのは事実だ。