ファン、雄星、翔平、プロ野球へ。
イチローから現役最後のメッセージ

  • スポルティーバ●文 text by Sportiva
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

―― ケン・グリフィーJr.さんが、肩の力を抜いた時、肩のものを下ろした時に「違う野球が見えて、また楽しくなる」という話をされたのですが、そういう瞬間というのはあったのでしょうか。

「ないですね。ただ、子どもの頃からプロ野球選手になることが夢で、それがかなって、最初の2年、18、19歳の頃は、一軍に行ったり、二軍に行ったり、そういう状態でやっている野球は結構楽しかったんですよ。94年に仰木(彬)監督と出会って、レギュラーで初めて使っていただいたわけなんですけど、この年まででしたね、楽しかったのは。あとは、その頃から急に番付を一気に上げられちゃって、それはしんどかったです。やっぱり力以上の評価をされるというのは、とても苦しいですよね。

 だから、そこからは純粋に楽しいということは、もちろん、やりがいがあって、達成感を味わうこと、満足感を味わうことはたくさんありました。ただ、楽しいかっていうと、それとは違うんですよね。そういう時間を過ごしてきて、将来はまた楽しい野球をやりたいなというふうに......これは皮肉なもので、プロ野球選手になりたいという夢がかなったあとは、そうじゃない野球をまた夢見ている自分が存在したんですよね。これは中途半端にプロ野球生活を過ごした人間には、おそらく待っていないもの。草野球でも、やっぱりプロ野球でそれなりに苦しんだ人間でないと楽しむことはできないのではないかと思って、これからはそんな野球をやってみたいなという思いですね」

―― イチロー選手は開幕シリーズを大きなギフトとおっしゃっていました。今回、私たちの方が大きなギフトをもらったような気持ちでいるんですが、これからどんなギフトを私たちにくださるのでしょうか。

「ないですよ、そんなものは。無茶言わないでくださいよ。ホントこれは大きなギフトで、去年3月の頭にマリナーズからオファーをいただいてからの、今日までの流れがあるんですけど、あそこで(現役が)終わっていても全然おかしくないですからね。いまこの状況が信じられないです。あの時考えていたのは、自分がオフの間、アメリカでプレーするために準備をする場所というのは神戸の球場なんですけど、そこで寒い時期に練習するのでへこむんですよね。心が折れるんですよ。そんな時もいつも仲間に支えられてやってきたんですけど、最後は訓練を重ねてきた神戸の球場でひっそりと終わるのかなと想像していたので、もう夢みたいですよ。これも大きなギフトですよ、僕にとっては。質問に答えてないですけど、僕からのギフトはないです」

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