イチロー、日米通算4368安打へ。「次の1本への執念」は変わらない (5ページ目)

  • 小西慶三●文 text by Konishi Keizo
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 追い込まれたカウントで相手の決め球を狙い打つ。または予想だにしない悪球を、軟体動物のような動きで拾い打っていく。好球を気持ちよく振り抜くのではなく、難しいボールをしぶとくヒットにつなげることで相手を迷わせ、悔しがらせて心理的なダメージを与える。そんな彼ならではの戦略に、69歳で亡くなる間際までトップ級の実力を保持した日本将棋界の巨星、大山康晴・十五世名人の逸話を重ね合わせたことがある。

 バッティングを生き物に例え、そこに絶対的な正解は存在しないと考えるイチローと、対戦者の読み筋に入ることを嫌い、最善手ではなく次善手を打ち続けた棋界の伝説。感覚を生き物としてとらえ、いかにそのデリケートなものとうまく付き合っていくのか。長く、太いキャリアを築くための哲学は地味なところで通じているように思えるのだ。

 4000本目達成の夜、イチローは日々の準備を徹底することについて、「それは当たり前のこと。そこにフォーカスがいくこと自体おかしい」と語っている。「できる限りの準備をしても次のヒットが打てる保証はない。だから野球は楽しい」との考え方が、そのせりふの背後にある。

 敵地、本拠地、時期は関係ない。現役選手でいる限り、彼のルーティンは延々と繰り返される。次の1本への執着が尽きるまでは――。

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