イチローの日米通算1本目を取材した記者が見た「超一流プロの流儀」 (4ページ目)

  • 小西慶三●文 text by Konishi Keizo
  • photo by Getty Images

 この日のゲーム後も、東京ドーム三塁側通路から階段を駆け上がる彼についていくのが精いっぱいで、ほとんど質問を継ぐことができなかった。チームバスの乗車口前でやっと足止めし、「打てば打つほど、わかってくればわかってくるほどバッティングは難しくなる」とのひと言を聞いた。

 一切笑わず、慎重に言葉を選んでいた姿は、およそ新記録達成には似つかわしくなかった。あの張り詰めたものの背後には何があるのか。その理由がやっとぼろげにわかってきたのは、メジャーでのイチローを取材するようになってからだった。

 高くなる一方のハードルを跳び続ける苦しさは、道を究(きわ)めようとする者にしかわからない。結果オーライでバッティングを片付けられればどんなに楽だったか。

 しかし、彼は最後まで折れなかった。4000安打を放った日の会見で、イチローは「ちょっとややこしい言い方になりますが」と前置きし、「いろんなことがあきらめきれない自分がいることを、あきらめる自分がずっとそこにいる。野球に関して妥協ができない」と語っている。

後編につづく

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