常勝より成長を選んで正解。大谷翔平は「一刀流」でもドキドキさせる (3ページ目)

  • 杉浦大介●文 text by Sugiura Daisuke
  • photo by Getty Image

 プロの条件とは、ファンを喜ばせられること。最上級のスポーツ・エンターテイメント・ビジネスであるMLBにおいても、現状、大谷ほどファンを惹きつけられる選手は存在しない。シーズン後にトミー・ジョン手術を受けると仮定して、打者に専念することになる来季にどんな成果を叩き出すかも興味深い。そして、"二刀流"への挑戦が再開されるはずの2020年、大谷の一挙一動に、再び全米のファンの視線がクギ付けになるのだろう。

 いずれ体ができて、スキルがさらに研ぎ澄まされた際には、それほど起用法に慎重にならずとも"二刀流"を実行できる日が来るかもしれない。そんな大谷の完成形は、メジャーでも比較対象のない史上最高のプレーヤーではないか。だとすれば、故障のリスクがつきまとい、前述したような打撃面のポテンシャルが停滞する可能性はあっても、前人未到を追い求める"アドベンチャー"をやめるべきだとは、やはり思えないのである。

 今後がどうなっていくかの予想は難しいが、現時点ではっきりしているのは2つ。まず第1に、自身の成長に主眼をおけば、大谷は間違いなく適切な所属チームを選んだということ。1年前にはヤンキース行きが確定事項のように語られていたが、「常勝」が義務づけられたチームであれば育成は難しくなっていたはずだ。温暖な気候下で、目先の勝利へのプレッシャーが強いとはいえないエンゼルスは、金の卵を大事に育てるにはベストに近いチームである。

 そしてもうひとつは、今後もその起用法、処遇に対する議論はさまざまな形で続いていくだろうということだ。喧騒が収まることはない。メジャーのすべてのファン、関係者にとって、"大谷翔平をめぐる冒険"はまだ始まったばかり。これから先も、おそらくは10年以上も、日本が生んだ怪物は米球界の話題の中心であり続けるに違いない。

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