NY歓喜のタナカ・タイム。
「こういうゲームで勝つためにここに来た」

  • 杉浦大介●文 text by Sugiura Daisuke
  • photo by Kyodo News

 ただ......。たとえそうだとしても、地元ファンを興奮させ、歓喜させ、希望を与えた第3戦での田中の"マスターピース(絶品)"の価値が下がるわけではない。

「こういうゲームを投げて、勝つために僕はここに来たと思っている。前回、(2年前に)ワイルドカードゲームで投げた時は負けてしまいましたけど、今回はこういう状況のなかで勝てた。こっちに来てから一番大きな勝利だったんじゃないかなと思っています」

 その感情はチームの側にも共通するものだろう。2014年1月、ヤンキースが総額1億5500万ドルという大金を払って田中を獲得したのも、端的に言ってこんなゲームのためだった。そして、アップ&ダウンの激しさに苦しんだシーズンの最後に、最も重要な一戦で最高の結果を出してみせた。

 たまらなくせっかちで、早々に結果を出せない選手には容赦なくブーイングを浴びせるのがニューヨーカー。しかし、大舞台で力を発揮できるアスリートに対して、この街の人たちは立ち上がって拍手を送ることを厭(いと)わない。

 これから先に何があろうと、2017年10月8日の"タナカ・タイム(Tanaka Time)"が忘れられることはない。不安が徐々に希望へと変わっていったスタジアムの大歓声の余韻も消えない。秋のマウンドでの躍動と咆哮は、田中のメジャーキャリアを語るうえで、重要な1ページとして記憶されていくはずである。

■MLB 記事一覧>>

4 / 4

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る