最底辺よりも下。「プロ野球難民」が集うペコス・リーグって何だ? (6ページ目)

  • 阿佐智●文・写真 text&photo by Asa Satoshi

 野茂がメジャーへの階段の第一歩を記したマウンドに、夢をあきらめきれない若者が立っている。この日、デーゲームで本拠地を持たないハリウッド・スターズがこの球場を借りて、ツーソン・サグアロスと試合を行なっていた。チケット販売もせず、ほぼ無観客のスタンドにいたのは選手の家族だけ。スターズの先発投手、ニック・マイノットの父親の姿もネット裏にあった。このリーグで2シーズン目を迎えるニックだったが、味方のたび重なるエラーもあり、3回13失点でマウンドを降りた。

 バスの出発時刻も迫ってきたので、球場を去ることにした。ベンチを出て談笑していたひとりの選手にバスの時刻を調べてもらうと、すぐにやってくるというので慌てて球場を出た。息を切らせて通りに出た私を追いかけるようにやってきた1台の車から声が聞こえてきた。声の主は、先程までスタンドで息子のピッチングを見守っていたニックの父だった。

「乗っていくかい。息子が降板したので、昼飯を食いに行くんだ」

 彼は、大学院に通いながら夏休みをこのリーグで過ごす息子の夢にもう少し付き合うらしい。この日のピッチングを見る限り、彼がメジャーの舞台に立つことはないだろう。それでも、そういう選手がアメリカの片隅にある小さな町に、ベースボールの火を灯していることに、この国の野球の裾野の広さを感じた。

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