秘話。ロイヤルズを救った42歳イバニエスのひと言 (2ページ目)

  • ブラッド・レフトン●文 text by Brad Lefton
  • photo by Getty Images

 しかし、イバニエスがロイヤルズに入団したあともチームは浮上のきっかけを掴めず、勝率5割前後をさまよっていた。さらに、オールスター明けには4連敗を喫し、借金も2となり、ア・リーグ3位に落ちていった。

 そんな時、イバニエスは選手を集め、ミーティングを開いた。7月22日、シカゴ遠征での2戦目の前のことだった。ミーティングは40分に及び、どんなことでチームが前に進めないのかを議論した。そんな中、イバニエスが放ったひと言がチームに大きな影響を及ぼしたのだった。

 イバニエスは、敵として戦っていた時、彼らにどれだけ脅威を感じていたかを述べた。イバニエスはその時のことを、次のように語った。

「ロイヤルズを敵として見ていた時、彼らが勝ち方を覚えて、チームが一丸になったら本当に脅威になると思っていた、という話をしました。僕が感じていたことを率直に伝えることが大切だと思いました。彼らに自信を持ってほしかったからです。そして今、私たちは本当にすごいチームになった。すごく気持ちのいいことですし、チームがひとつになれたことが本当に嬉しい」

 ミーティング後の試合を7-1で勝利したロイヤルズは、そこから怒涛の快進撃を見せる。20試合で17勝3敗という驚異的な成績を見せるなど、後半戦を41勝27敗で乗り切り、優勝こそタイガースに1ゲーム差で及ばなかったが、ワイルドカードでポストシーズンに進出。ポストシーズンでも8連勝を達成し、29年ぶりのワールドシリーズ進出を果たした。

 青木は、チームの眠っていた潜在能力をイバニエスが引き出してくれたと言う。

「やっぱり、彼がいてくれるだけでいいと思うな。いてくれるだけで安心感がある。彼はすごいプレイヤーなのに、人間性も素晴らしい。あの時(シカゴでのミーティング)、すごくいい雰囲気を作ってくれた。このチームに足りなかったものを彼が補ってくれた。イバニエスは誰もが認める大ベテラン選手。長年の経験を積んだ分、言葉に重みがあるし、みんな気持ちを奮い立たせられるような思いがあったよね」

 数字的に見れば、ロイヤルズでのイバニエスの成績は、打率.188、ホームラン2本でエンゼルスの時と大きく変わっていない。ただ、彼がチーム与えた影響というのは数字で表すことができないくらい大きい。イバニエスはポストシーズンから登録メンバーから外れたが、クラブハウスで若い選手を励まし、ベンチでも大声を出してチームを鼓舞し続けた。

 42歳の今、1996年にマリナーズから始まったメジャー人生も19年が経ち、これで終わりだろうと思われる。ただ、最後の最後で見せた彼の貢献というのは、我々の想像をはるかに超えるものだった。

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