川﨑宗則が体現するメジャーで生き抜く極意

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Getty Images

「ゲッツーのとき、セカンドのベースカバーに入ったライアンが、上から投げたり、下から投げたり、時には横から、あるいは真下から......いろんな投げ方をしてる。なんだ、これ、と思ってライアンに訊いてみたら、いろんな投げ方をすることで、相手をビビらせて、スライディングを遅らせることができるというんですよ。いつも上から投げたらランナーもスライディングしやすい。それをちょっと角度を変えて投げるだけで、ランナーのスライディングを緩めることができる。 ランナーに安心感を与えないために、いろんな投げ方を覚えなくちゃいけないということだったんです。いやぁ、ビックリした(笑)」

 日本では、ゲッツーの際、ベースカバーに入ったショートは、一塁へは上から投げるというのが当たり前だったが、あえて下から、あるいは横から投げることで、セカンドへ走ってくるランナーを牽制することができるというのだ。だから川﨑はライアンの投げ方をマネした。徹底的にマネすることで上手くなろうとした。川﨑はこうも言っていた。

「日本では、『周りのみんなが納得するようなエラーなら仕方がない』という言い方をされるでしょ。正面に入ろうとしてエラーするのはしょうがない、セカンドベースに入ってきっちり上から投げたのに暴投しちゃったらそれもしょうがない、基本通りやってのエラーは周りが納得する』って......僕もずっとそうやって教えられてきたからね」

 でもね......と言って、川﨑はこう続けた。

「エラーはエラーや(笑)。周りが納得しようが納得しまいが、エラーに変わりはないんだよ。正面に入ろうとする、上から投げる、そういうことにとらわれていたら、自分の野球を縛ることになる。それじゃ、こっちでは野球にならないよ。サードをやるなら、強い打球にも負けない逆シングルの精度を、もっと上げなきゃと思うしね」

 川﨑は頭の中ではなく、メジャーリーガーのマネをしたことによって体が感じたことや、目で盗んだメジャーリーガーのリズム感によって、メジャーで通用する守備力を身につけた。日本ではこれが基本だという先入観から自分自身を解き放ち、目で見た情報を信じて、マネをすることでマナぼうとする。川﨑は、焼酎の 一升瓶を持ち上げて、隣のロッカーに座っていたホセ・バティスタと盛り上がっている。

「今夜はコイツをチームのみんなと呑むんよ。みんなと同じもん食って、同じもん呑んで、同じ空気吸って、コミュニケーションとらんとね」

 マナぶことはマネぶこと――川﨑が日本人で唯一、メジャーの内野を守っているのにはそれなりの理由があるのだ。

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