「野茂攻略」に情熱。トニー・グウィンの死を悼む (2ページ目)

  • 笹田幸嗣●文 text by Sasada Koji
  • photo by Getty Images

 そのグウィンが、野茂を厄介と語った理由はこうだった。

「僕はリリースの際、投手の手に注目する。手首が打者の方を向いていればストレート系、小指が向いていたらカーブ系、親指ならばシンカー系だ。だが、野茂はたったふたつの球種しかないのにどちらも手首が打者の方を向いている。だから、区別がつかない。本当に厄介な投手だよ」

 この年、野茂は13勝を挙げ、オールスターの先発投手に選ばれ、236奪三振でナ・リーグの奪三振王。さらに、新人王も獲得した。全米で"ノモ・マニア"なる言葉まで生まれた投手の凄みを明確に説明してくれた大打者の一言。大きな感銘を受けたことを今でもはっきりと覚えている。

 そして、その翌年のことだった。もう一度、グウィンの元に話を聞きに行くと、彼はウインクしながらこう語ったのだった。

「野茂の攻略法がわかったよ。それは、手のひらがどちらを向いているかではなく、リリースポイントの高低で見ればいいんだ。彼のフォークは抜けるように出てくるから、ストレートよりも高い位置から出てくるように見える。これで、もう大丈夫だ」

 その言葉通り、グウィンの対野茂との通算成績は、25打数14安打(打率.560)。これは人並み外れた動体視力と、ビデオというツールを正しく使いこなした結果であり、何より孤高の打撃技術を維持し続けたことによるものだ。

 若すぎる54歳での死。アメリカ球界はあまりにも偉大な人材を失ってしまった。

 ご冥福をお祈りします。

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