田中将大、全試合QSの安定感を生む「逆転の発想」 (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Getty Images

 ただ、メジャーで戦う田中には、もうひとつの武器があった。その武器がなければ、伝家の宝刀、スプリットも宝の持ち腐れになっていた可能性さえある。

 それが、アウトローへのストレートだ。

 田中は、怪獣たちが口を広げて待っているところにあえて飛び込むが如く、アウトローへストレートを投げている。それもアウトローいっぱいへ、彼のストレートは正確無比に投げ込まれる。

 今年の田中は、日本で投げていたときのように上体をムチのようにしならせることなく、どちらかというと"おとなしい"フォームで投げてきた。それは様子見の意味も込めて、メジャーのバッターの反応を確かめながら投げたいという狙いもあるだろうし、どれだけ力を込めて投げてもコントロールミスをしでかしたら メジャーでは一発を打たれると身を持って味わってきたからということもあるだろう。相手の反応を見ながら、コントロールを重視したピッチング。そんな田中の意図が、今のフォームに表れているような気がしてならない。

 その結果、メジャーでの田中は、相手を圧倒することよりもまず勝ちにつながるピッチャーであるために、アウトローへきっちりとストレートを投げてきた。スピードを抑えてまで、コントロールを優先させる。ストレートにこだわりのない田中だからこそできる芸当であり、そういう選択肢をチョイスできる嗅覚があるから、田中は舞台をメジャーに移しても勝ち続けているのだろう。アウトローいっぱいに決まるストレートがあれば、そこからボールゾーンへ落ちていくスプリットを、いともあっさり振らせることができる。アウトローに田中のストレートとスプリットを投げ分けられたら、いかにメジャーの猛者といえども、打ち崩すのは容易ではない。

 しかし、である。

 ミルウォーキーでの田中は、立ち上がりからストレートの軌道が、ことごとく高かった。おそらくリリースの瞬間、わずかに球持ちが短くなっていたのだろう。 メジャーでは原則、中4日のローテーションだ。この日は中5日ではあったが、ダメージはボディーブローのごとく、じわじわと溜まってくる。硬いマウンドと中4日の疲れが、リリースの瞬間、ミクロのブレをもたらした。

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