松坂大輔「野球を辞める覚悟はできている。でも、今じゃない」 (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 その瞬間、ピシッという音が微かに響く。こんなに腕が振れているのかと、仰天させられた。

 じつは、これが松坂の出した答えだった。

「今まで、ヒジを痛めて、肩をかばって、上体が横回転になっていました。それを縦回転に戻す。そうすれば腕は一番いい道を通って、振り抜ける。そのために、右腕の通り道を優先させてフォームを組み立て直したんです。だから、今のピッチャーの常識は全部、捨てました。平行に体重移動をするとか、右肩は下げちゃダメだとか、ヒジを上げろとか、そういうことは一切、気にしていません。とにかく今の自分がどういうふうに体を使えば腕が振れるのか。そこだけを気にしているんです」

 すべての動きを、右腕の通り道から逆算する。

 しかも松坂が言うように、腕を振ろうと思って振るのではなく、体を使った結果、腕が振れていなければならない。大雑把に言えば、右の股関節から左の股関節へ体重を移し替える間に、腹筋と背筋で上体を振り、腕を振るのではなく、肩甲骨を回すというイメージ。そこに腕が自然についてくる。そんなフォームで投げることができれば、肩、ヒジに負担が掛かるはずはない。あとはこのフォームを体に染みつかせて、意識しなくてもそういうふうに投げられる再現性を高めるだけだ。今、もっともこだわりたいことは何かと訊くと、松坂はこう言った。

「続ける、ということですね。ここに投げたい、こういう変化で投げたい、こういう軌道で投げたいというボールが頭の中にはあるんですけど、それが2球なり3球と続かない。一球、いいチェンジアップを投げた後に、同じようなイメージで投げても、ちょっと高めにいって大きな当たりを打たれたり……たぶん、まだ余計な意識がどこかにあるんでしょうね。続かないということをちょっと意識しちゃってる気がします」

 フォームにブレがなくなればいいボールが続くという手応えが、今の松坂にはある。だからテンポよく、迷いなく、いいリズムで投げられる。ストレートのスピードが90マイル前後でも、松坂に一切の不安はない。

「スピードのことはチームの方がけっこう気にしますけど、僕は気にならないですね。自分で今のは出てるかなと思っても出てなかったり、そうでもないと思ったときに結構出てたりするんです。自分自身、体感速度には満足してますし、空振りも取れる、ファウルになる、飛ばされてもホームランにはならないという、そういう真っすぐを投げられているという感覚がありますからね」

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