松坂大輔「野球を辞める覚悟はできている。でも、今じゃない」 (2ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 なぜならメジャーで6年以上のキャリアを持つ松坂は、メッツとの契約で、3月25日までにメジャー昇格を果たせなかった場合、退団してFAとなるか、10万ドル(約1千万円)のボーナスを受け取ってマイナー行きを受け入れるか、どちらかを選択できることになっていたからだ。その最終テスト、24日のカージナルス戦で、松坂は7回途中までを投げて、無失点のままマウンドを下りた。結果、松坂は開幕ローテーションの座をつかんだと、誰もが思った。ことあるごとに、まだわからない、というニュアンスを発する言葉の中に含めていた松坂も、この日の試合後には、「ここまでやるべきことはやってきた」と、充実感を漂わせるコメントを残していたほどだ。

 しかしメッツは3月25日、松坂とのマイナー契約の延長に合意したと発表した。同時に3月29日、モントリオールで行なわれる最後のオープン戦に松坂を登板させることも明らかにした。つまりは1千万円を払って結論を先送りとし、松坂に追試を課すことにしたというわけだ。5人目の枠を争っていた24歳の右腕、ヘンリー・メヒアも、それまでのオープン戦で結果を残していたため、どちらを選ぶか、決め切れなかったのである。

 そして、追試のマウンドでも、松坂は5回を投げて無失点、8奪三振という文句のつけようのない結果を残した。にもかかわらず、試合後、松坂はまさかのマイナー行きを宣告された。彼はこの日、こんなコメントを発している。

「競争であって競争ではない、という感じですかね。自分がいい状態であっても、いいものを出しても、それが判断材料にならないというのが、今の僕の立場です」

 開幕メジャーに残ったメヒアは、4番目のスターターとして4月4日のレッズ戦で6回を投げ、失点1と期待に応え、今季初勝利を挙げている。一方の松坂は、先発枠のアクシデントに備えて、マイナーで好調を維持しなければならない。オープン戦よりも遥かに難しい調整を強いられることになる。

 この状況を見るにつけ、つくづく、メッツはもったいないことをしたと思う。

 というのも、今年の松坂のフォームを見て、今の時点での松坂をメジャーで投げさせておけば、今年一年、安定したピッチングを続けられたはずなのに、という取材者としての確信があったからだ。一方、故障がちのメヒアは一年間、ローテーションを守るのは難しいだろう。馬力のあるメヒアは、ローテーションの誰かにアクシデントがあった場合、短いスパンでその穴を埋めるのには適している。開幕の時点で松坂をメジャーに、メヒアをマイナーに置いておけば、二人の持ち味を存分に活かすことができたのに、と思うからこそ、メッツはもったいない選択をしたなと思ってしまうのだ。

 それほどまでに、今年の松坂は違う──。

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