川﨑宗則「逆境、いいじゃないか。笑っていこうぜ」 (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Iashida Yuta
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 それにしてもオープン戦であんなにすごい声援、初めて聞いたよ、と投げ掛けてみる。

「オレも初めて聞いたよ。あんなの、聞いたことない。みんな、すごいよ。すごく応援してくれる」

 川﨑は、トロントで地元メディアのインタビューを受け、一躍、人気者となった。

「マイネーム、イズ、ムネノリ、カワサキ、アイム、ジャパニーーーーーーーズ!」

 メジャー初のホームランを打ったとき、あるいはサヨナラヒットを打ったとき、トロントのチームメイトもファンも、それを我がことのように喜んでいたのは、英語を流暢に話せない川﨑がノートを持ち歩いて、なんとかコミュニケーションを取ろうとしていた姿を知っていたからだ。

 去年、川﨑はブルージェイズのマイナーで開幕を迎え、3度のメジャー昇格、2度のマイナー降格を味わった。それでも、メジャー2年目に残った数字は、すべてにおいて1年目を上回った。マリナーズでの1年目は61試合に出場し、104打数20安打、打点7、盗塁2、ホームランはゼロ、打率.192。ブルー ジェイズでの2年目は95試合に出場し、240打数55安打、打点24、盗塁7、ホームラン1本。打率は1年目より3分上がって.229。3年目、その存在感を認められ、またもブルージェイズとマイナー契約を交わし、メジャーを目指してスプリングトレーニングに参加している立場は去年と同じかと思いきや、そうではなかった。

「全然、同じじゃない。だって去年の今頃はフロリダにはいなかったからね。ブルージェイズと契約がまとまるまで、ずっと福岡でひとり、練習してました。『開幕は4月だからそれまでに決まればいい、まだまだ大丈夫、おれは練習するだけだ』ってね。でも今年は最初からフロリダに来て、キッチリ、しっかり疲れてるんだから、充実感が違いますよ。ゲームを毎日戦うことが疲れとなって、じわじわ押し寄せてくる。その疲れが充実感につながるんです。だから、寝られる、寝られる。家に帰って、奥さんが作ってくれる美味しいごはんを食べて、息子と遊んで、バッタンと寝る。そうすれば元気になれる。で、次の朝、起きてまた球場へ行く。オレにとっては、グラウンドに行くことが最高のファインプレイなんです。グラウンドに立てたら、よっしゃ、後は起こるべきプレイを吸収して帰るだけ。だって野球って毎日、ホントにいろんなプレイが起こるんだからね」

 逆境を笑え──。

 川﨑は常にそう考えて自らを奮い立たせてきた。

「逆境だから、本当は苦笑いなんだけどね(笑)。マイナー契約なんて、逆境のうちに入らないよ。逆境なんて、笑い飛ばせばいい。逆境、いいじゃないか。 笑っていこうぜ、ということ。笑っちゃえば、逆境なんて何もなくなる。そりゃ、オレにも笑えないと思うときだっていっぱいあるけど、そんなときは強がっての苦笑いとか、無理しての作り笑いが大事。笑いにもたくさんの笑いがあるからね。逆境のとき、オレはみなさんに苦笑い、作り笑いをオススメします(笑)」

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