ポスティング問題「長期化」で一番の被害者は黒田博樹?

  • 福島良一●解説 analysis by Fukushima Yoshikazu 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 カブスは1908年を最後に100年以上もワールドチャンピオンになっていません。そんな低迷を脱するべく、2011年、ボストン・レッドソックスを2度も世界一に導いたセオ・エプスタインGMを球団社長に招き入れました。しかし、いまだ再建のキッカケを掴むことができず、今オフ、エースのジェフ・サマージャと長期契約が合意に達しなければ、来シーズンはエース不在になるかもしれないのです。2番手以降のトラビス・ウッドやエドウィン・ジャクソンは、エースと呼ぶには実力的に厳しい。田中投手が入団すれば、メジャー1年目から先発ローテーションに欠かせない存在となるでしょう。藤川球児投手も来シーズンは復帰する予定なので、先発・田中将大→リリーフ・藤川球児の「夢の日本人コンビ」が誕生するかもしれません。エプスタインGMは、2007年に先発・松坂大輔→リリーフ・岡島秀樹で世界一に輝いた青写真を描いているのではないでしょうか。楽天を日本一に導いたように、田中投手が低迷するカブスを甦(よみがえ)らせる可能性は十分にあります。

 現在、ポスティング案の見直しにより、今後どんな状況になるのか分かりません。新しいポスティングシステムが成立しても、落札球団との正式契約は、来年にずれ込む可能性が十分にあります。メジャーのキャンプは2月中旬ごろにスタートしますが、落札チームが決まってから交渉を始め、そして入団が決定してもビザ取得などの手続きがありますので、キャンプインには間に合わないかもしれません。

 ただ、FA市場は12月のウインターミーティングから本格的に動き出すものの、近年、大物選手の契約は年を越してから決まる傾向で、キャンプインまでずれ込むことも多くなってきました。田中選手は今オフの一番の目玉選手なので、万が一、合流が遅くなっても焦らないことが大事だと思います。もちろん、早く決まることに越したことはないのですが、たとえキャンプで結果を残さなくても、開幕からローテーションの一員として迎え入れてくれるはずです。

 むしろ、田中投手の移籍先が決まらないことで一番影響を受けるのは、今オフにFAになった他の先発投手たちでしょう。多くの球団が田中投手獲得に名乗りを挙げているので、ポスティングで行き先が決まらない限り、他のFA先発投手の獲得に動けないからです。つまり、その影響を最も受けるのは、ヤンキースからFAになった黒田博樹投手ではないでしょうか。田中投手獲得に失敗したチームは、こぞって評価の高い黒田投手を狙う算段だと思います。ポスティングの結果次第で、黒田投手はヤンキースと再契約するかもしれませんし、3年ぶりにドジャースに復帰するかもしれません。このように、新ポスティング成立の遅れが、思わぬところに影響を及ぼすのです。

 はたして、田中投手は来シーズン、どのチームのマウンドに立つのでしょうか。そして、黒田投手はどのチームと契約することになるのでしょうか。今オフは当分、日本人にとって気が気でない毎日が続きそうです。

プロフィール

  • 福島良一

    福島良一 (ふくしま・よしかず)

    1956年生まれ。千葉県出身。高校2年で渡米して以来、毎年現地でメジャーリーグを観戦し、中央大学卒業後、フリーのスポーツライターに。これまで日刊スポーツ、共同通信社などへの執筆や、NHKのメジャーリーグ中継の解説などで活躍。主な著書に『大リーグ物語』(講談社)、『大リーグ雑学ノート』(ダイヤモンド社)など。■ツイッター(twitter.com/YoshFukushima

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