日米通算4000安打達成。イチローが貫いた「異常の中の日常」

  • 笹田幸嗣●文 text by Sasada koji
  • photo by AP/AFLO

 当初、イチローも「いやー、人が多かったですね。スペースがないから困りますよ」と苦笑しながらも、クラブハウスでルーティンのストレッチに勤しんでいたが、これまでと種類の違う喧騒に「このような経験はないですね。これってニューヨークだからこうなのかな」と戸惑いをみせていた。

 そして、4000本安打が近づくにつれ、ヤンキースとロドリゲス側との対立が表面化し、イチローは困惑の表情を浮かべた。

「これはちょっと異常じゃないですかね」

 そして、野球に集中するためにこう語った。

「関わらないことですね」
 
 イチローが試合開始時間から逆算し、分刻みでルーティンを行なっていくことは有名だ。それはストレッチやマシンを使っての身体の準備だけでなく、気持ちの面でも試合に入っていくモードを作っていく。

 そのイチローにとって忘れられない日がある。昨年の7月23日、野球人生をかけ移籍を受け入れ、一塁側のマリナーズのクラブハウスから三塁側にあるヤンキースのクラブハウスに移ったあの日だ。ヤンキースの選手として初めて出場した試合を4打数1安打で終えたイチローは次のように語った。

「とりあえず、今日はごちゃごちゃの中でプレイできた。この1日は、そういう意味で自信になった。(自分のロッカーを指し)グチャグチャですから。こんなに散らかっていることないですから、僕のロッカーは」

 4000安打はピート・ローズとタイ・カップ、そしてイチローの3人だけが許された領域だ。1本の安打を打つことに対し、イチローがどれだけの時間を費やし、準備を行なってきたことか。そして、その積み重ねを22年間も継続してたどり着いた4000安打という偉業。イチローは以前、こう語っていた。

「夢や目標を達成するにはひとつしか方法がない。それは小さなことを積み重ねること」

 次なる目標はメジャー通算3000安打。イチローならどんな環境でも乗り越えていくことだろう。

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