7・28松井秀喜引退セレモニー。「1日契約」というメジャーの伝統 (3ページ目)

  • 福島良一●解説 analysis by Fukushima Yoshikazu
  • photo by AFLO

 しかもその年、レッドソックスは86年ぶりにワールドチャンピオンとなり、ついに「バンビーノの呪い」を解くことになったのです。さらに2007年には、松坂大輔投手や岡島秀樹投手の活躍もあって再び世界一へ。愛するレッドソックスで優勝の美酒に酔いしれたかったガルシアパーラは、一度もその瞬間に立ち会うことなく、2009年を最後に引退する決意を固めました。しかし2010年3月、古巣レッドソックスはガルシアパーラに1日契約をオファー。その結果、最後は愛着のあるレッドソックスのユニフォームを着て引退することができたのです。

 昔の時代は、デビューしたチームで現役を終える選手も少なくありませんでした。しかし1976年のフリーエージェント制度の導入により、スター選手が大型契約を求めて他球団に移籍し、ひとつのチームでキャリアを終えることは少なくなってきました。そのような時代背景がありつつも、最後は古巣に帰って来て引退するのがメジャーリーガーの夢です。1972年から1974年のオークランド・アスレチックス3連覇の主力だったレジー・ジャクソンは、ヤンキースに移籍して大活躍した後、最後は古巣に帰って引退しました。最近の例では、ケン・グリフィー・ジュニアでしょう。シアトル・マリナーズの顔としてブレイク後、シンシナティ・レッズやシカゴ・ホワイトソックスを経由し、最後は再びマリナーズに帰ってきてイチローとも一緒にプレイし、2010年に古巣で引退しています。シカゴ・カブスで名を残したサミー・ソーサも、最後はデビューしたテキサス・レンジャーズに戻ってユニフォームを脱ぎました。ただ、すべてのプレイヤーが古巣に帰って来られるわけではありません。そういうこともあって、1日契約というものが活用されるようになったのです。

 松井氏がニューヨークで過ごした期間は、7年――。決して長いとは言えません。しかし、7年間におけるヤンキースへの多大な貢献が認められたからこそ、1日契約という名誉を手に入れたのです。常勝軍団のヤンキースにとって、最大の目標はワールドチャンピオンのみ。2009年、ワールドシリーズでMVPを獲得した活躍ぶりは、今もヤンキースファンの心にしっかりと刻まれているのでしょう。松井選手はチームを去ってから4年経っても、ニューヨークで絶大な人気を誇っています。

 現地の報道によると、7月28日の日程に決めたのは、今シーズン、ヤンキースのホームゲーム55試合目だからだそうです。実際は雨天中止による延期で今季55試合目ではないのですが、これも粋な計らいだと思います。アメリカでもっとも厳しいメディアとファンを抱える名門ヤンキースにおいて、こんなにも愛された選手はそういません。改めて、松井氏のすごさを感じます。7月28日、ヤンキースタジアム――。メジャーリーガー松井秀喜の最後の勇姿を、しっかり目に焼き付けたいと思います。

プロフィール

  • 福島良一

    福島良一 (ふくしま・よしかず)

    1956年生まれ。千葉県出身。高校2年で渡米して以来、毎年現地でメジャーリーグを観戦し、中央大学卒業後、フリーのスポーツライターに。これまで日刊スポーツ、共同通信社などへの執筆や、NHKのメジャーリーグ中継の解説などで活躍。主な著書に『大リーグ物語』(講談社)、『大リーグ雑学ノート』(ダイヤモンド社)など。■ツイッター(twitter.com/YoshFukushima

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