いつか、再び...。1995年のオールスターで一度だけ観た「真夏の夢」

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • photo by AP/AFLO

 94年、メジャーリーグは選手会のストライキによってシーズン途中での中止を余儀なくされた。95年は通常より約1カ月遅れの開幕。しかし、今度はファンがボイコット。ピッツバーグでの開幕戦の観客数はわずか7074人。サンディエゴでは7468人。他の球場もひどいありさまで、メジャーリーグは未曾有の不人気に陥っていたのである。

 そんなさ中に野茂英雄という神秘的な存在が突如として現れた。野茂はファンが嫌う“ストライキ”とは無縁の野球選手だった。トルネード投法と呼ばれる独特のフォーム。英語を話さない記者会見。投げるのは速球とフォーク。築き上げる三振の山。単純明快なスタイルは地元ロサンゼルスだけでなく、遠征する先々のファンの心もわしづかみにしていった。アメリカ中に「ノモマニア」が出現し、野茂が登板すれば観客動員が大幅にアップした。

 人気回復の起爆剤となった野茂を、全米の注目が集まるオールスターゲームの先発で起用するのは道理だったのだ。ちなみにこの年、もうひとつの起爆剤となった歴史的事件として、カル・リプケンJr.(オリオールズ)の連続試合出場メジャー記録更新があったこともつけ加えておきたい。

この日、球場には50920人の大観衆(収容人数は49178人)がつめかけた。野茂が動くたびに「ノモ!」「ノモ!」という歓声が聞こえてくる。この1年前まではメジャーリーグの球場で日本人を見かけるのは珍しいことで、野茂にしても、村上雅則(ジャイアンツ)以来31年ぶりの日本人メジャー選手だった。

 私はテキサスの野球ファンに、野茂について質問してまわった。当時はインターネットから得られる情報も少なく、交流戦もなく、レンジャーズのファンが野茂を見る機会はESPN(スポーツ専門チャンネル)のニュースくらいしかない時代だった。

「ノモについては知ってる方だよ。日本では1年目が18勝で去年は8勝7敗だろ。ノモは投球スタイルがユニークだよね」
 L・サイモンさん(当時34歳)は言った。
「他に知ってる日本人? ヒト…、そうヒロヒト・エンペラーだ。あとはサダハル・オーと、T・クロキくらいだよ」
 T・クロキって誰ですか?
「大学時代のルームメイト。ヤツはソフトボールをやって、ライトフィルダーだった。チームで一番基本ができてたなあ。それよりも、レンジャーズのスカウトも日本に行って選手を見つけてくりゃいいのにな」

 P・クラインさん(当時31歳)は、ESPNで野茂が登板した試合を見ることができたという。
「へんてこなフォームだけど見るのが楽しい投手だよね。もう少し英語をわかってくれたら俺らも彼をもっと理解できるんだけど。それを抜きにして、俺は“ビッグハート”フランク・トーマス(ホワイトソックス)が好きだけど、今日はノモが三球三振を取ることを望みたいね。ノモはストライキが終わって、人気が低迷する野球にエキサイトメントを取り戻してくれたヤツだから」

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