【MLB】
「2年目の武器」を手にしたダルビッシュ有の快進撃は止まらない

  • 笹田幸嗣●文 text by Sasada Koji
  • photo by Getty images

 ここでポイントになるのが、「相手」と「周囲」だ。「相手」の部分は、1年目ならばお互いを知らないので条件に変わりはなく、2年目を迎えても両者の上積みの部分はほぼ同じ。だが、日本人メジャーリーガーの2年目には「周囲」が見えてくるというプラスアルファが出てくる。1年目は周囲が見えずにただがむしゃらに走るしかないが、2年目は環境にも慣れていろんなことが見えてくるようになる。ダルビッシュもキャンプ中に「去年は何もわからなかったけど、今年は違う。不安はない」と自信をのぞかせていた。

 キャンプからのピッチングを見る限り、フォームは昨年よりも力感がなく、投球の際の歩幅も狭めで重心が高く見える。マウンドの傾斜を生かした投球フォームで、リリースも昨年のように打者の近くまで引っ張るというより、頭の上で切るようなイメージに近い。そうすることでスムーズな体重移動が可能になり、制球が安定するようになった。

 そしてもうひとつ。打者の観点から見れば、昨年の投球からダルビッシュのベストボールは「スライダー」というのが頭にある。カーブを除けば、そのスライダーが最も遅いボールとなる。だが、スライダーを意識すればするほど、カットボールやツーシーム、フォーシームといった球速のあるボールへの対応が難しくなる。

「直球あっての変化球」という言葉があるが、ダルビッシュにその言葉は当てはまらない。ダルビッシュにおいては「スライダーあってのストレート系」ということになり、打者が対応に苦心するのも仕方ない。オープン戦ではカットボールを中心の組み立てで好投を続けていた。マダックス投手コーチは「ダルビッシュは球種が多いけど、それを全部使う必要はない」と語っていた。事実、ワシントン監督らのアドバイスで、ブルペンで調子のよくないボールは投げなくていいことになったという。

 そう、このように首脳陣やチームメイトがダルビッシュを正しく理解していてくれることも、2年目の大きな強みである。

 野球統計学の大御所、ビル・ジェームズ氏は今季の著書『The Bill James Handbook 2013』でダルビッシュについて、次のように記している。

「今季は249個の三振を奪い、ア・リーグの奪三振王を獲得。将来的にノーヒッターを達成する確率は20%ある」

 あとひとりで偉業を逃したダルビッシュだが、決して一世一代のチャンスを逃したわけではない。ダルビッシュ伝説はこれからが本番なのだから。

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