【MLB】極東の「金の卵」を探して。日本担当スカウト50年史 (2ページ目)

  • 福島良一●解説 analysis by Fukushima Yoshikazu
  • photo by AFLO

 一方、ブルージェイズは日本だけでなく、さらにワールドワイドなスカウト活動を展開していきました。その範囲たるや、「世界中、野球の試合のあるところには必ずブルージェイズのスカウトがいる」と言われたほどです。日米紳士協定を守り、日本では積極的なスカウティングを控えたものの、ブルージェイズは早くから環太平洋の国々を隈なくチェック。1982年には韓国球界のエースだったチャイ・トウゲンという投手を春季キャンプの40人ロースターに登録したり、1986年には『20世紀初のオーストラリア人メジャーリーガー』となるクレイグ・シップリーという選手を発掘した実績も残しています。

 そして1990年代になると、メジャーの球団は次々とアジア担当スカウトを置くようになり、日本国内の選手を緻密にチェックするようになりました。1995年に野茂英雄投手がメジャーで大旋風を巻き起こしたことも、その流れを加速させたのでしょう。1998年にはニューヨーク・メッツが秋田・大曲工高の後松重栄(うしろまつ・じゅうえい)という投手とマイナー契約し、初めて日本の高校球児を獲得したことも話題となりました。

 21世紀に入ると状況はさらに変わり、次第に日本プロ野球界と競合するようになっていきます。2008年には、新日本石油ENEOSの田澤純一投手が日本プロ野球を経由せずにボストン・レッドソックスと契約。日本球界が大慌てしたのは記憶に新しいところです。しかし、あくまでメジャーの球団は日米紳士協定を重視しています。今回の大谷投手の一件でも、日本ハムのドラフト指名後は静観していました。

 ただ今後、メジャーのスカウトが日本球界に進出してくる流れは、さらに加速すると思います。昔から「スカウトはチーム強化の第一歩」と考えるメジャーは、スカウトに大きな権限を与え、予算も人数も日本と比べてケタ違いです。彼らは何百キロも動き回って『金の卵』を探しているので、今後、彼らが日本にどっと押し寄せる可能性も決して否定できません。

 また、メジャーのスカウトは独特な視点を持っており、思わぬところから人材を発掘してきます。野球だけでなく、陸上やサッカーなど、違う競技をやっている選手も「メジャーリーグで通用するのでは?」と考えながらチェックしているそうです。各球団が現在、最も力を注いでいるのが国際スカウト部門なので、将来、彼らが日本で注目されていなかった若者を見つけ出し、メジャーで大ブレイクさせるかもしれません。10年後なのか、もしくは20年後なのか......。そんなアメリカンドリームも、実にメジャーリーグらしいと思います。

プロフィール

  • 福島良一

    福島良一 (ふくしま・よしかず)

    1956年生まれ。千葉県出身。高校2年で渡米して以来、毎年現地でメジャーリーグを観戦し、中央大学卒業後、フリーのスポーツライターに。これまで日刊スポーツ、共同通信社などへの執筆や、NHKのメジャーリーグ中継の解説などで活躍。主な著書に『大リーグ物語』(講談社)、『大リーグ雑学ノート』(ダイヤモンド社)など。■ツイッター(twitter.com/YoshFukushima

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