【MLB】最多勝ディッキーのナックルボールはなぜ打てないのか? (2ページ目)

  • 福島良一●解説 analysis by Fukushima Yoshikazu
  • photo by AFLO

 すると今シーズン、ディッキーは開幕から好投を続けます。ナ・リーグで1944年以来となる2試合連続で1安打完封勝利を挙げるなど、全米中を驚かせました。6月26日現在、ディッキーの成績は11勝1敗・防御率2.31。ナ・リーグの最多勝争いでトップに立ち、早くもシーズン自己ベストに並んでいます。

 殿堂入りのフィル・ニークロを筆頭とした過去のナックルボーラーと比べると、ディッキーは明らかに違う特徴を持っています。それは、ナックルの球速なんです。一般的なナックルボーラーの球速は平均時速70マイル(約112キロ)程度ですが、ディッキーは80マイル(約128キロ)以上。いわば『高速ナックル』なんです。

 しかも、コントロールが抜群にいい。投げた本人ですら、どこにボールが行くのか分からないほどコントロールの難しいナックルを、ディッキーは巧みに操ることができるのです。現在、ディッキーは105イニングを投げて106奪三振に対し、フォアボールはわずか24個。ワイルドピッチも、6月24日のニューヨーク・ヤンキース戦の1回のみです。さらに、ナックルボーラーは盗塁を狙われやすいのですが、ディッキーは今シーズン、まだ2回しか盗塁を企てられず、ひとつも盗塁を許していません。過去の歴史とまったく異なる、信じられないナックルボーラーなんです。

 2008年のシアトル・マリナーズ在籍時に、キャンプのブルペンでディッキーの投球を見たことがあります。当時はナックルの投げ方を試行錯誤している時期だったと思うのですが、まさかあのピッチャーがこんな活躍をするとは、夢にも思いませんでした。今シーズンの衝撃度は、あのスティーブン・ストラスバーグ以上です。アメリカでは、今年のオールスターでディッキーをナ・リーグの先発投手に推す声も高まっています。現在、37歳――。紆余曲折を経た遅咲きは、名だたるナックルボーラーと同じく、これからも長く活躍してくれることでしょう。

クリス・セール(シカゴ・ホワイトソックス)

 ナ・リーグを騒がせているのがディッキーなら、ア・リーグで一際注目を集めているのが、シカゴ・ホワイトソックスのクリス・セールです。日本ではまだあまり知られていませんが、セールは『ランディ・ジョンソンの再来』と呼ばれている23歳の若手左腕です。

 2007年、高校卒業時にコロラド・ロッキーズからドラフト21巡目で指名されるものの、セールは大学進学を決断しました。ただ、当時のセールは高い評価を得られず、フロリダのマイナーな大学でプレイすることになります。しかし、大学1年のときに投球フォームをオーバーハンドからスリークォーターに変更すると、球速が瞬(またた)く間に上昇。一躍、大学球界で注目の逸材となりました。

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