【MLB】川﨑宗則「3Aに落ちたって、別に死ぬわけじゃない」

  • 田尻耕太郎●文 text by Tajiri Kotaro
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

「開幕メジャーなんて僕は興味ない。周りが切羽詰まり過ぎなんですよ。もちろん僕自身もそこ(開幕メジャー)を目指してやっていますよ。でも、仮にメジャーに行けなくたって、別に死ぬわけじゃないでしょ(笑)」

 この考え方は、ホークスの王貞治球団会長の影響を強く受けている。王会長は監督時代に「思い切ってやればいい。命を取られるわけじゃない」といつも選手たちに言い聞かせていたのだ。

 そして川﨑の移籍について、世間では「ただ、『イチロー愛』を貫いて海を渡った」と思われがちだ。しかし、ここでもまた、彼の本音は周囲の印象と少し違っている。

「単純に環境を変えたかったんです。ホークスでの12年間はずっとハッピーでした。しかし、ここ数年は自分の立場も変わったし、歳もとった。若い時のように一番下っ端で何事もガムシャラにやっていた楽しさとは違った。首脳陣からは『若いヤツを頼むぞ』と言われ、選手会長としての仕事もあった。それは経験すべきことだし、その中での楽しさを見つけながらやってきたから、その時だって楽しかったですよ。でも、FA権を取ったら別の楽しみを見つけに行きたいと思っていました。それがアメリカなのか、韓国なのか、台湾なのか......。ただ、日本とは違う場所で野球をやってみたかった」

 2月上旬に渡米して、はや1カ月以上が過ぎた。英語はほとんど喋れない。それでも川﨑は「今はすべてが新鮮」と白い歯を浮かべる。

「もちろん苦労もありましたよ。たとえば、アリゾナに来ていきなり野球道具が届かなかった。仕方ないから近くの店でグラブとスパイクを買いに行きました。スパイクはメーカーの担当者さんがロスから車で6時間かけて持ってきてくれたので何とかなりましたが、グラブは1週間使いましたからね(笑)。でも、それだってアメリカに来ないと経験できなかったこと。とにかくいろんなことを経験したい」

 すべてが前向きで、かつ自然体。それが川﨑のスタイルである。

「正直、タコマ(3Aの本拠地)からのスタートだって構わない。そういう場所でプレイする経験もしてみたいし、そこから這い上がるのも僕らしいでしょ(笑)」

 もちろん開幕メジャーの可能性がある限り、全力を尽くす。マリナーズの開幕戦の舞台は東京ドーム。だが、日本凱旋がそのまま「川﨑の成功」という価値観では彼の挑戦を語れない。

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