仙台育英に漂う王者の風格 「慶應は特別な存在」「劣勢にも理想的な展開」で慌てず騒がずタイブレークで勝利

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 腹の底から轟音が響いてくる。それは久しぶりの感覚だった。

 4年ぶりに甲子園に「声出し応援」が帰ってきた。人間の声の力をまざまざと思い知らされたのが、3月21日に登場した慶應義塾(神奈川)の大応援だった。

 仙台育英(宮城)との1回戦は、三塁側アルプススタンドの慶應義塾ブラスバンドが演奏する応援歌『若き血』で始まった。アルプススタンドのみならず、バックネット裏にかけて三塁側スタンドをびっしりと埋めた慶應義塾ファンの大歓声が甲子園にこだました。

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【昨年の優勝メンバーは7人】

 仙台育英の先発左腕・仁田陽翔(にた・はると)は立ち上がりから7球連続でストライクが入らない。今春にかけて見違えるように制球力が向上した仁田だったが、この日はコントロールに苦しみ2回途中で降板している。

 2回表に慶應義塾の5番打者・清原勝児がレフト前ヒットを放つと、歓声はさらに大きくなった。その後も試合は慶應義塾ペースで進み、仙台育英は後手に回る我慢の時間が続いた。

 昨夏に東北勢として初めて甲子園で優勝した仙台育英は、今春のセンバツで夏春連覇への挑戦権を得ていた。昨夏の全国制覇を経験したメンバーは7人もおり、大会前には大阪桐蔭とともに優勝候補と呼ばれた。

 仙台育英の須江航監督は以前、こんなことを語っていた。

「『この試合が求めているものは何なのかな?』って常に考えているんです」

 この日の甲子園球場は、まるで慶應義塾の勝利を願っているかのようなムードが充満していた。もっと言えば、「清原にヒーローになってほしい」という高校野球ファンの願望すらも透けて見えた。仙台育英にとっては、「自分たちは甲子園から求められていない」と疑心暗鬼になっても不思議ではない雰囲気があった。

 だが、須江監督は意外な言葉を口にしている。

「多くの選手が『理想的な展開』と思って、淡々とやれていました。甲子園がホームだと思えてやっていた。それは去年の経験が生きたのだろうと感じます」

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