東筑のテクニカルマニア・高崎陽登が目論む夢。「プロに行って、有名投手の動画を撮りまくりたい」

  • 菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

 試合を終えて選手用出入口から姿を現した高崎陽登(あきと)に「お疲れさまでした」と声をかけると、力なく微笑が漏れた。福岡大会準々決勝・東筑対九州国際大付戦。東筑のエースナンバーをつけた高崎は4番手でマウンドに上がり、わずか2アウトしか取れず2失点で降板していた。

身長187センチの大型左腕、東筑の高崎陽登身長187センチの大型左腕、東筑の高崎陽登この記事に関連する写真を見る まず、高崎に確認したいことがあった。

---- 体をどこか痛めていたのですか?

 高校最後の夏を終えた高崎は、すべてを打ち明けた。

「夏の大会前からヒジが痛くて全然投げられなかったんです。最近よくなってきて今日は全力でいったんですけど、全然本調子じゃなくて......」

不完全燃焼に終わった夏

 高崎は今年の春になって、密かにスカウト陣から注目を集めたドラフト候補だった。身長187センチ、体重82キロの大型左腕で最高球速は146キロ。その数字以上に加速感と圧力を感じさせるボールは、ドラフト上位指名の高い評価を受けても不思議ではなかった。

 福岡県の高校野球に詳しいライターのトマスさんから高崎の情報を聞いた私は、すぐに東筑に足を運び、野球専門誌で「隠し玉」と大きく紹介している。東筑という文武両道の名門校に通いながら、高崎は「育成でもいいからプロに行きたい」と熱弁した。趣味は「投球動作の論文を読むこと」というテクニカルマニア。プロに行ってやりたいことを聞いた時の返答がまたふるっていた。

「プロに行って、有名投手の動画を撮りまくりたいんです。SNSに上がっている動画は、だいたい自分の見たい角度じゃないので」

 今夏のアピール次第では、十分にプロ入りも狙えたはずだった。ところが、7月3日の福岡大会初戦で登板した高崎の最高球速は129キロだったという。その後は登板機会すらなかった。幸い東筑には堂満遼太郎ら能力の高い投手がほかにもおり、高崎抜きでもベスト8に進出した。

 異変はブルペンからはっきり見てとれた。強打の九州国際大付にビハインドを負った試合展開もあり、高崎は2回裏からブルペンで投球練習を始めた。ところが、ボールが指にかからず、捕手が飛び上がって止めるようなハイボールが続く。

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