大島高校「奇跡のチーム」はいかに誕生したか。島外の強豪校志望のエースは仲間の言葉に悩みが消えた (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

「ウチのチームには武田涼雅、前山龍之助、中優斗(あたり・ゆうと)とすごい人たちがいて、ほかのチームにも稼頭央とかいい選手がいました。島のみんなと野球をするのって、こんなに楽しいんだな。仲間と一緒に甲子園に行けたら最高だろうな......って思ったんです」

 西田の父・哲さんと大野の父・裕基さんが大島高校野球部OBだった縁から、両家で食事会をする機会があった。裕基さんは当時を振り返る。

「進路については自分で責任を持って決めてもらいたかったので、親からは何も言っていません。僕らは会話に加わらずに、ふたりだけで話をさせました」

最強バッテリー誕生

 ひとしきり食事を終えると、西田は大野にこう告げた。

「俺は大高(大島高校)に行くから」

 大野が鹿児島実に憧れていることを知っていた西田は、無理強いはしたくなかった。自分の道は自分で決めてほしい。それでも、大島が甲子園に行くには、どうしても大野の力が必要だと西田は考えていた。そこで、西田は「一緒にバッテリーを組みたい」という言葉をつけ加えた。大野は笑顔で聞いてくれた。

 西田はその反応を見て、「7:3くらいの割合で、来るだろうな」と希望を得た。大野が大島への進学を決めたのは、その直後だった。

「心太朗に『バッテリーを組みたい』と言われて、今までなんで悩んでいたんだろうと不思議に思うくらい、あっさりと『大高に行こう』と決まりました。島に残ってみんなと一緒に野球をやるほうが悔いはないし、達成感がありそうだなと」

 大野は当時をそう振り返る。自分がエースで、西田が正捕手。ほかにも武田、前山、中ら島内の有望選手が集まることを想像すると、胸が躍った。

 大野と西田が大島高校に来る。そのニュースはもともと島に残ることを決めていた選手に火をつけた。今は主将を務める武田は言う。

「中学までは本気で野球に打ち込むというより、みんなと楽しくやっている感じでした。大野と西田が来るとわかって、甲子園という明確な目標ができました。だから高校では本気で野球ができたのだと思います」

2 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る