和歌山東の2回戦。浦和学院相手に「日本に勇気と元気を与えるゲーム」で大波乱を起こせるか (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 身長167センチ、体重71キロの山田もまた、緩い変化球を難波に投げ込んだ。やや甘く入ったボールを難波がとらえると、ライトへのフライに。一塁走者が飛び出す判断ミスにも助けられ、併殺でピンチを切り抜けた。

 その直後、延長11回表に和歌山東打線がつながり、一挙7点を奪って試合を決めた。

 試合後、田村と山田に聞かずにいられなかった。大事な場面で登板し、遅いボールを投げるのは勇気が必要だったのではないかと。ふたりとも答えは似たようなものだった。

「僕は速球派のピッチャーじゃないので、緩急を使って打たせてとるピッチングをしたいと思って投げています」(田村)

「自分には速い球がないので、遅い球で引っかけさせるのが持ち味なので。怖いということはないです」(山田)

 田村も山田も、自分の仕事ぶりに自信と誇りを持っていることは伝わってきた。

ドラフト候補は皆無

 彼らだけではない。今年の和歌山東にはスカウトが注目するようなドラフト候補がいるわけではなく、中学時代に実績のある選手も少ない。智辯和歌山や市和歌山より技量が劣る選手が、和歌山東には集まってくる。

 一見平凡に見える甲子園初出場校の選手たちが、大舞台でも自信を持ってプレーできる理由。それが選手の言葉だけでは、十二分に理解できなかった。

 そこで、起用する米原寿秀監督に聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

「ウチのテーマは『日本に勇気と元気を与えるゲームをする』やから。田村も山田も失うものは何もない。試合に出てったヤツが思いきってやるだけ。ひるんだプレーはするなと言ってきたことが、浸透してきたのかな」

 とはいえ、使う側も勇気が必要なのではないか。狙いや勝算があるとはいえ、結果が出なければ叩かれるのは監督である。「エースと心中する」と動かなければ、たとえ結果が出なくても叩かれる心配はないのでは。そう尋ねると、米原監督はこう答えた。

「それができたから、今ここ(甲子園)に来られたわけやからね。それを変えちゃったら、ウチは何もないチームやから」

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