これほどの投手がなぜ大学では無名だったのか。都市対抗で好投したエイジェック左腕の正体 (3ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 この日の林は、間違いなくハマった日だった。

 今秋のドラフトで指名された選手やベテランの強打者が居並ぶNTT西日本打線のなかで、とくに渾身のフルスイングを繰り返す上位打者ほど、林が織りなすストレートとスライダーの緩急に、スイングが合わない。

 この日、林が奪った8三振のうち、空振り三振はじつに7つもあった。

【都市対抗が一世一代のピッチングになってほしくない】

「高校の時はオーソドックスなフォームでしたから。今のフォームは社会人になってからのフォームじゃないでしょうか。ロッテなどで活躍された小林(雅英)さんがコーチになられ、いい指導のおかげでここまでの投手になったんでしょう。今年の7月に、足利市長杯で150キロを超えたということも聞きましたし、MVPにも選ばれたようで、都市対抗でも期待していたんですよ」

 大学野球で苦しんだ教え子の思わぬ台頭に、水谷監督の声も弾む。

「中学は部活の軟式で、東大からプロに進んだ宮台康平投手(現・ヤクルト)の後輩でね。大学ではなかなか光が見えてこなかったのが、このピッチングでようやく一条の光が差し込んだというところでしょうね」

 ここを最初のステップにしてほしいと、水谷監督は願う。

「ピッチャーには、突然バーンとすばらしいピッチングをして、そのあとパタリ......みたいなことがよくありますけど、この都市対抗が林にとって"一世一代のピッチング"になってほしくない。これから上に登っていく最初の一段目になってほしいですね。これから登っていく山の頂がちょっと見え始めてきた......そういう立ち位置を理解し、地に足をつけて一歩一歩、コツコツやってくれたらと。ここからが本当の勝負になっていくんだと思います」

 雌伏の時を経て、林が堂々のドラフト候補に名乗りを挙げた。

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