王者陥落のピンチを救った大阪桐蔭の1年生左腕。「負けたことがない」男・前田悠伍とは何者だ? (3ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Kyodo News

 たとえば近畿大会の塔南戦。この試合で前田は打者26人に投げ、初球ストライクがじつに22回。2球ボールが続いたのは、わずか1回しかなかった。試合後、このことについて前田に聞くと、こんな答えが返ってきた。

「ワンボールツーストライクのカウントをつくったら、ピッチャーが有利という意識はいつもあります。だから、そのカウントをつくれるように。まず1つストライクを取って、そこからどう投げていくかを考えています」

 そしてこう続けた。

「調子に関わらずストライクは取れるので、自分でもそこの安心感はあります。今のところは......ですけど、ピッチングで困ったことはないです」

 近畿大会準決勝で対戦した天理は、準々決勝で市和歌山の好投手・米田天翼を打ち込むなど強力な打線がウリのチームで、そこに前田がどんなピッチングをするのか注目していた。

 プレイボールから天理打線にとらえられ、しかもほとんどがファーストストライク。珍しくボール先行が目立つなど、容易にストライクを取りに行けない圧を感じたのだろう。だが、2回り目になるといつもの調子でストライクを先行させ、気がつけば7回を投げきっていた。試合後、前田は涼しい顔でこう語った。

「立ち上がりは(判定が)ちょっと厳しいかなと思って、少し甘めにストライクを取りにいったら、やっぱりとらえられました。だから初球ストライクにはこだわらず、(捕手の)松尾さんとも話をして、内、外をしっかり使って攻めるようにしたら大丈夫でした」

 サウスポーの武器であるクロスファイヤー(右打者の内角を突くボール)は中学時代からの得意球だが、この秋は右打者の外、つまり左打者の内角を突くストレートも光った。これは左打者が並ぶ履正社との対戦を見越して磨いたものだったが、投球の幅がより一層広がった。

 野手陣も一戦ごとに力をつけ、一人ひとりがしっかり役割をこなしたが、そこでも"前田効果"を感じた。大会が進むにつれ「前田が投げれば大丈夫」という安心感がチームに広がり、試合に入ればテンポのよさとストライク先行の投球で、野手陣にいいリズムをもたらした。

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