「4人の上野由岐子が投げている、という感覚がありました」。女子ソフトボール上野が振り返る東京五輪

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――同じ投手の藤田倭(やまと)選手、後藤選手とは、大会中にどんな話をしましたか?

「ピッチャーは私、倭、後藤の3人しかいなかったので、2人のことは『自分のボールを信じて投げて。五輪の雰囲気を自分の肌で感じてきておいで』と送り出すことが多かったです。周りを気にしないで投げてほしかったですから、伝えるべきことは余すことなく伝えるように意識していました。

 倭は不安なこと、わからないことを積極的に聞いてきてくれました。予選リーグのアメリカ戦では、翌日の決勝に向けてしっかりと相手のデータが取れるピッチングをしてくれたので、『流石だな』と思いましたよ。あえていろんなコースに投げて打者の苦手なコースをあぶり出し、マウンドで感じたことを私たちに教えてくれた。すごく参考になりましたし、私も彼女を頼っていました。どんな打者も、バッティングの調子は1日では大きく変わらない。あとは決勝で、私がマウンドに上がって打者の空気を感じるだけだと思っていました」

――最大のライバルであるアメリカを相手に、どんなことを考えて投げていたんですか?

「大会中は、相手がどこであろうと『今日はどういうピッチングをしようかな』としか考えていませんでした。決勝では、日本もアメリカも互いを知り尽くしていますから、アメリカに『上野はやっぱり打てない。今日はいつもと違う』と思わせることが重要。強い相手のほうが、『いろいろなピッチングスタイルを見せていきたい』とイメージしながら投げるので、ワクワクして楽しい気持ちが強くなります」

東京五輪について振り返った上野 photo by Sportiva東京五輪について振り返った上野 photo by Sportivaこの記事に関連する写真を見る――決勝では5回を終えて後藤選手と交代。その時の気持ちを教えてください。

「『自分の仕事は終わった』と思っていました。交代する直前に打たれた一球だけ、投球フォームが気持ち悪くてうまく投げることができず、気にかかっていましたけどね。そうしてベンチに戻ったんですが、そのあとのチームの雰囲気から『これは再登板がありそうだな』と感じて。『しっかりやるべきことを決めてからマウンドに上がりたい』と思い、ブルペンでフォームを再確認しながら準備しました」

――先ほどの話に戻りますが、一度交代した時点ではまだ投球フォームは「完成」していなかったんですか?

「そうですね。『完成した』と思ったのは、再登板前にブルペンで投げている時でした。どこが変わったのかを言葉で説明するのは難しいんですが、『やるべきことが決まった。これでもう大丈夫』みたいな感覚になったので、絶対的な自信がありました」

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