怪物・松井秀喜を抑えた大阪桐蔭の「もうひとりのエース」。バッテリーにとって「ドラマのような試合」だった (4ページ目)

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki
  • photo by Kyodo News

 3回戦の竜ヶ崎一戦で高校通算33本目の本塁打を記録している、2年生スラッガー・松井秀喜は脅威だった。ストレートにはめっぽう強く、少しでも甘いコースに入ったらスタンドまで飛ばされてしまう。キャッチャーの白石は、思い切った決断を背尾に伝えた。

「しつこいほどカーブとスライダーで攻める。真っすぐはあくまで見せ球に使おう」

 意見が一致する。背尾が頷き本音を漏らす。

「絶対に、勝ちたいな」

 短い言葉に、白石が応える。

「あんまり気負うなよ」

 バッテリー間の意思疎通を明確にして迎えた一戦。初回、二死三塁のピンチで早くも松井と対峙した大阪桐蔭バッテリーは、5球中4球を変化球で攻めた。三振に打ち取ったスライダーが振り逃げとなり、先に1点を与えてしまったが、白石は「私が捕り損ねただけ」と、配球は正しかったことを実感する。

 そして、2回二死三塁のチャンスで、自身のセンター前への同点打でミスを帳消しにすると、続く足立昌亮の二塁打で逆転に成功。ここから、背尾--白石コンビが乗った。

 4回無死一塁で迎えた松井の2打席目。カーブとスライダーで1ストライク2ボールとカウントを整えてから、外角へ2球連続ストレートを投げ、またスライダーと相手を幻惑していった。最後は、6球目の外角ストレートでセカンドゴロ併殺打に抑えた。

 5回に主砲・萩原誠の「ここ一番で投げるボールを打つ」と対策を練っていた、星稜の左腕・山口哲治のスローカーブをレフトラッキーゾーンに叩くなど3点を追加し、リードを広げた。

 6回、一死一、三塁のピンチで迎えた松井との3度目の勝負は、それまでと配球を変えて挑んだ。2球続けて高めのストレートで入り、3球目から2球連続でカーブ。絶妙にタイミングを外し、サードライナーに打ちとって、この回を無失点で切り抜けた。

 そして、7対1と大勢が決したなかでの9回、松井との4度目の対戦は、オールストレート勝負でレフトフライに打ちとった。2年生の怪物を無安打に封じ込めた背尾は、星稜打線も散発4安打、1失点に抑える完投。念願だった甲子園初白星を手にした。

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